(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)
米朝首脳会談を開催地のベトナム・ハノイで取材した。
会談の細かなスケジュールは事前には明らかにされず、ほとんどの場合、米国政府によって直前に発表された。まず、両者は2月27日の夕方に、会談会場となるホテル「ソフィテル・レジェンド・メトロポール・ハノイ」で短時間の二者だけの会談を行い、その後、側近2名ずつを加えて晩餐会を行った。交渉の本番となる公式会談は翌28日に予定されていた。
27日夜になってホワイトハウスが、28日のスケジュールを発表した。「午前中に公式会談を行った後、午後2時から合意文書の署名式を行い、その後、午後3時50分からトランプ大統領の投宿先であるマリオットホテルで、トランプ大統領単独での記者会見を行う」とのことだった。
ホワイトハウスが公式会談の直前の段階で合意文書の署名式の予定を発表したということは、すでに何らかの合意があったことを示していた。それまでのトランプ大統領と金正恩委員長の言動も、両者が楽観的な見通しを持っていることをうかがわせた。
28日朝、取材拠点となるメディアセンターに着くと、午前9時30分までにトランプ大統領の会見への出席希望申請を提出するように通達があった。会場のキャパシティの関係から、抽選に当たった記者にだけ出席を許可するということだった。
結局、筆者は外れてしまったが、当選者には「午前11時にメディアセンター前に集合せよ」との連絡が入った。移動に30分以上、保安チェックに1時間以上かかるとしても、夕方4時近くからの会見に備えて午前11時に集合というのはずいぶん早い時間帯である。
まもなく、合意文書署名がキャンセルされ、トランプ大統領の記者会見も2時間前倒しの午後2時からになった、と発表された。取材陣の早めの集合は、そういう理由だったようだ。
私を含めて世界中から集まった取材陣のほとんどが、今回の合意内容に注目していたが、まさか合意そのものがなくなるとはまったく予想していなかった。