日銀は17日午後に公表した「地域経済報告(さくらレポート)」で、地域経済の動向について、「足もとの景気は、若干の地域差はあるものの、大幅に悪化している」と総括判断。前回1月分から下方修正した。地域別では、下方修正が7地域、前回並みが2地域で、上方修正はゼロ。前回並みにとどまったのは東海と中国だが、うち東海については「急速に下降している」という非常に厳しい判断が1月時点で示されていたため、あえて今回下方修正する必要がなかったということなのだろう。

 今回の地域経済報告では、地域の視点による調査分析として、「インバウンド観光」、すなわち訪日外国人観光の現状と課題が取り上げられた。日本国籍の有無にかかわらず日本の国土に滞在している人口を増やす努力をすることで内需のコースを上向きに転換させる努力をすべきだ、という筆者の主張ともかみ合っており、大変興味深い内容だった。そのほかに筆者が注目したのは、図表部分にある地域ごとの動き、中でも日銀短観の地域別業況判断DIである。

 地域別業況判断DI(全規模合計・全産業)は、直近3月調査では、全規模合計・全産業は▲46という結果だったが、この水準を上回ったのは北海道、関東甲信越、四国、九州・沖縄の4地域。驚くべきことに、北海道が▲36で、DIの水準が最も高かった。全国を下回ったのは、東北、北陸、東海、近畿、中国の5地域。これらのうちでDIの水準が最も低かったのは、地域経済のコアである自動車産業が輸出急減ショックに見舞われた、東海の▲55。数年前までは日本で最も景況感の厳しい地域と見られていた北海道がトップに立つ一方、世界経済拡大の果実を最も享受して日本で景気が一番よい地域だと見られていた東海地域がいまや景況感の最も悪い地域に転落しているというのが、足元の状況である。

 だが、北海道の上記DIが地域別に見て最も高い水準になったことを、前向きに捉えるのは難しい。北海道の経済は、内需に依存している度合いが相対的に高いことから、もともと低迷状態にあり、マーケット用語を用いれば、「ボラティリティーの低い低迷状態」が続いてきたと言うことができる。一方、東海地域の経済は、輸出産業の大黒柱である自動車の上下動に影響される度合いが大きく、海外経済と為替相場という2つの変数によってその行方が大きく左右される、「ボラティリティーの高い経済構造」を有しており、現在ではそれが景況感の落ち込みが他地域よりもきつくなる方向に作用しているということである。

 北海道にせよ東海地域にせよ、景況感のベクトルが下向きであることに変わりはない。3月調査時点の6月予測DIを見ると、北海道は▲42、東海地域は▲59で、ともに3月実績から一段と悪化する姿になっている。製造業・非製造業の別にDIを見ると、製造業には下げ止まりの兆しとも受け取れる動きがあり、北海道は3月▲34、6月予測▲34。東海地域は3月▲69、6月予測▲68である。しかし、非製造業では一段の悪化という方向感が明確で、北海道は3月▲38、6月予測▲45。東海地域は3月▲40、6月予測▲49となっている。輸出急減ショックの後には「供給サイドのダウンサイジング」で内需の落ち込みがきつくなるだろうという筆者のシナリオと整合的な結果である。

 地域経済報告の図表ではそのほか、地域別のCPIコア(消費者物価指数 生鮮食品を除く総合)の数字も興味深い。全国が2カ月連続で前年同月比 0.0%となった2月分を見ると、沖縄の前年同月比+1.1%に次いで、東海地域の同+0.5%が、目立って高くなっている。次いで、関東甲信越地域の同+0.1%。これらの地域以外は前年同月比がゼロかマイナスになっており、最低は北海道の▲1.0%。もともと景気が低迷していたことに加え、高騰していた灯油の価格急反落が、北海道の大きな幅のマイナスの数字には寄与していると考えられる。だが、消費者物価というのは、景気循環に対する遅行指標。東海地域については今後、景気が急速に悪化したことが、CPIの押し下げ要因として寄与してくることになるだろう。

 地域別業況判断DIにおいて北海道がベスト、東海地域がワーストになるという従来と逆の現象が発生したことは、輸出急減ショックのマグニチュードの大きさを示すものであると同時に、人口減少・少子高齢化によって日本の国内需要が着実に「地盤沈下」を続けているという厳しい現実を見つめ直す上でも、よい機会であろう。次の景気回復局面が輸出主導でいずれ起きる場合でも、地域別に見た景況感が、底上げ的に全地域で力強く上向くといったことは、到底考えられない。公共事業の一時的な上積みで潤う地域が出てくるケースも当面あるのだろうが、財政事情の一段の悪化に鑑みると、それは「にわか景気」以外の何ものでもない。

 筆者は引き続き、世界経済が陥った根の深い苦境に加えて、デフレ圧力を常に受け続けている日本経済の厳しい状況を念頭に置きつつ、長期金利は早晩、低下余地を模索する動きを鮮明にするものと予想している。