今回は、アジアのものづくり企業にとって重要な製造拠点および有望な市場であるポーランドを取り上げたい。

 2004年の欧州連合(EU)加盟以降、ポーランド経済の外部依存度は確実に上昇してきた。その影響が今回の経済危機の際にも表れている。象徴的な現象が3つある。

 第1に、ポーランドからEU諸国、とりわけ英国へ渡っていた出稼ぎ労働者が、最近になって大量に帰国していることだ。その数は約百万人とも言われる。

 ポーランドと英国の賃金格差は約5倍ある。ポーランド人は高学歴者すら英国では単純労働に甘んじていた。だが彼らの半数以上が今回の危機で英国において失職し、ポーランドに戻ってきた。それはポーランドの労働情勢にも影響を及ぼしている。

 第2に、外国企業が積極的に投資したポーランドの工場の稼働状況だ。2004年にEUに加盟した国はポーランドをはじめ中東欧を中心に10カ国ある。これらの国々のうち最初に評判を集めたのはチェコやハンガリーである。西欧諸国とも近く、道路などのインフラが整っていたこと、従業員の勤勉さや工業基盤などが評価された。だが、これらの国々は人口が少ないうえ、すぐに賃金が上昇した。そこで着目されたのが、人口3800万人という東欧の最大国ポーランドである。

 ポーランドへの直接投資は経済危機直前まで堅調に増加を続けていた。その牽引役となったのは、日本企業や韓国企業などによる機械産業への投資であった。彼らはポーランドをEU市場への戦略的な供給拠点と考え、投資を続けた。だが、現在はEU市場全体の冷え込みにより、多くの工場で稼働率が低下している。

 第3に、ポーランドの不動産業の財務体質が悪化している。金融危機以前には新興諸国のどの国でも不動産投資が進展した。ポーランドの特徴は、スイス・フランによってローンが組まれたことである。しかし、リーマン・ショック以降、国際通貨市場で信用力の薄いポーランドの通貨、ズロチはユーロやポンド、フランに比べて大幅に下落した。その影響を受けてポーランド国内の不動産業者は巨額の借金を背負うことになった。

 これらの事情を考慮すると、ポーランドの景気回復や投資環境の改善には、ズロチの信用回復やEU市場の需要回復などが必須であり、これには多少時間がかかるであろう。

揺らぐことのないポーランドの重要性

 しかし我々は、そうした調整期を経た後も、ポーランドの製造業投資の拠点としての重要性は揺るがないだろうと考える。

 まず欧州の他国と比べた場合の圧倒的な人口の優位性がある。図1は欧州諸国の人口分布を見たものである。2005年のポーランドの人口は3817万人。相対賃金面、潜在生産能力面、人口構成(若年人口の多さ)などの面でポーランドは他の中東欧諸国や西欧諸国と比べて優位性があり、今後ともアジアから製造業投資を引きつける潜在能力を有している。