先の大戦で陸軍の将兵の多くは、輸送艦で移動中に敵の攻撃に遭い、水漬く屍となった。陸上で戦うべき人たちが、海の上で命尽きることはいかばかり無念だったか。

 戦う者にとって、主戦場に赴けない、そこにたどり着くことができないことは、情けなく辛いことだが、その心境は一般的には理解され難い。

 「お父さん、災害派遣、頑張ってるね」。ある自衛官の家族が、近所の人にそう言われた。それを聞いた自衛官は、家に帰るに帰れなくなってしまったという。実際には現地に行っていなかったからだ。

 しかし、被災地に行かずともやるべきことは数多い。いや、むしろ、留守部隊や本部機能の方が睡眠時間も少なく、仕事量は多いかもしれない。「現地部隊はもっと苦労をしている」という思いもあるので、かえって休むことができない面もある。

 今、現政権が打ち出している「国家公務員の給与1割減」の方針は、その気後れ感にさらなる打撃を与えるのではないかと懸念している。

 そもそもは2割減の公約を掲げていた民主党であったが、さすがにこの時期、被災地で今もまだ自衛隊が頑張っていることを野党に指摘され、菅直人首相は5月15日の衆議院予算委員会で、「自衛隊は別の形でご議論いただきたい」という微妙な答弁をした。

 そんな中、派遣自衛官の手当が大幅に増額されるようだ。これにより給与1割減も致し方なしという空気を作ろうというなら、見過ごせない。

 それは、前述したように、現場に行っていない隊員たちにとっては「給与減で手当もなし」の状態になるからだ。これでは組織が耐えられないだろう。

 「事に臨んでは危険も顧みず・・・」と服務の宣誓で謳っている隊員にとって、お金がどうこうの問題ではないとは思うが、相変わらず「自衛隊は災害派遣専門の部隊でいい」などと言う国民が少なくない。そんな国においては、彼らに相当の名誉が付与されているとは言い難く、それくらいの配慮があってもいい。