平和な街があっという間に惨劇の現場に

 2022年2月、ロシアがマリウポリに侵攻を開始。ミスティスラフ・チェルノフ監督は仲間と現地に向かった。戦争は突然、始まった。幼い少女が泣きながら訴える。

「爆弾の音で目が覚めた。戦争が始まっちゃった」

 準備など誰もしていない。そこに次々と爆弾が落とされる。民間人は攻撃されないのではないか。淡い期待は一瞬で打ち砕かれた。当然のように防空壕などはなく、人々は逃げ惑い、集合住宅の地下に大勢が押し寄せる。皆が汗を流していたであろうフィットネス・ジムは行き場のない人々が集まり、避難所と化した。

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 突如、奪われた日常生活。状況がわからない人々は「どうしてこんな目に」「なぜ私の子が」と泣き叫ぶ。校庭でサッカーをしていた高校生男子はミサイルで両脚が吹き飛び、病院に運び込まれるも亡くなった。途方に暮れて、血まみれの息子を抱き抱える男性。

 最初の数日間で、マリウポリの住民43万人のうち、約4分の1は避難した。でも戦争が近づいていると理解していた人はわずか。大部分の人が取り残され、気づいた時には手遅れだった。