小池氏の卒業証書にある「乱れ」

 スタンプ以外にも、小池氏の卒業証明書には、他の正規の卒業生のものと異なる「乱れ」がある。

 第1に、小池氏の卒業証明書の文章が男性形で書かれていることだ。すなわち敬称に「サイイダ」(Ms.)ではなくサイイド(Mr.)が、生年月日を示す「生まれ」にも「マウルーダ(女性形)」ではなく「マウルード(男性形)」が、学位を「取得した」という語にも「ハサルト(女性形)」ではなく「ハサラ(男性形)」が、「(~の)求め」にも「タラブハー(彼女の求め)」ではなく「タラブフ(彼の求め)」と、すべて男性形で書かれている。

小池氏がテレビで公開した卒業証明書。筆者が引いた赤い下線が男性形の部分

 アラビア語では書類に男女の別を記載しなくても、語形でそれが分かるのである。他の卒業証明書でこのような性別の不一致があるものは1枚もなく、2通ある女性のものもきちんと女性形で書かれている。

「乱れ」の第2は、4人の署名者のうち、スクリーンショットでは、2人の署名しか確認できないことだ。同氏の卒業証明書の署名者の肩書は、右から「ムハッタス(specialist)」「ムラーキブ(controller)」「ムラーキブ・アーンム(general controller)」のサインの欄があり、サインがあると確実に言えるのは、真ん中の「ムラーキブ」のみである(そのさらに下には学部長のサインがある)。他の20通ほどの卒業証明書では、4つの署名のうち1つだけが欠けているものが1通だけあるが、それ以外はすべての署名者の欄にサインがある。

「乱れ」の3点目は、小池氏の卒業証明書には大学の収入印紙が逆さまに貼られていることだ。他の卒業証明書には、そういう例は1つもない。スペースの都合上やむなく、収入印紙を横に貼ったものはあるが、小池氏のものは、スペース確保とは関係なく逆さまに貼ってある。

 第4に小池氏の写真がピンで留めてあることだ。筆者が集めた他の卒業証明書の写真はすべて糊付けかホッチキスである。就職活動等に使う大切な書類なので、しっかり留めるのは当然だろう。小池氏のものは別ルートで作られたという印象を受ける。

 全体として、小池氏以外の卒業証明書は、スタンプの押し方、署名、収入印紙の貼り方など、非常に丁寧に作成されている点が印象的である。これで就職活動等をする重要な書類なので、当然だと言える。ところが、小池氏が卒業証明書だとしているものは、ずいぶんと杜撰に作られた印象を受ける。

 小池氏が、卒業証明書と卒業証書はごく一部のメディアにしか見せず、成績証明書はいまだ誰にも見せていないというのも奇妙である。

 筆者が取材で会ったカイロ大学の卒業生たちは、依頼すれば、全員、卒業証明書や卒業証書の画像を送ってくれたし、小笠原良治氏や中田考氏(1992年、カイロ大学から博士号を取得)の卒業証明書はネット上で公開されている。

 本当に正規ルートで卒業したというのなら、これは実に奇妙な態度である。もし筆者自身がカイロ・アメリカン大学の卒業(大学院中東研究科修士課程)を疑われたら、即座に、卒業証書、成績表、卒業生名簿、卒業式の写真、同ビデオ(業者が撮影し、各卒業生に売っていた)、派遣元である当時の勤務先(三和銀行)に毎月送っていた研修報告書の控え、当時の講義ノートなどを公開し、場合によっては名誉棄損訴訟を提起する。これは誰しも同じだろう。ましてや小池氏は公人で、かつ気に入らないことには強硬に反論する性格の人物である。ひたすら逃げの姿勢に終始しているのは、下手に喋れば卒論の件のようにボロが出ると思っているのかもしれない。