遺伝の予言から逃れることはできるのか

 これまでのように、ふたごに関する調査が中心で遺伝による確率は何パーセントかなどといった研究が主だった時代には、個人の人生に遺伝子が与える影響は未知の分野でした。 それが、科学的に語れるようになり、若い世代の行動遺伝学者が、世の中に対するメッセージ性の高い本を盛んに書くようになってきています。最近日本で翻訳出版されたキャスリン・ページ・ハーデンの『遺伝と平等-人生の成り行きは変えられる』(青木薫訳、新曜社)や、ダニエル・ディックの『THE CHILD CODE 「遺伝が9割」そして、親にできること: わが子の「特性」を見抜いて、伸ばす』(竹内薫訳、三笠書房)なんかがまさにそうですが、『Oedipus Rex in the Genomic Era』は、まさにそうした本の中の1冊です。すべては遺伝子の予言通りになるといったことが明らかになったとしたらあなたは自分の人生をどう考えますか、という問いかけです。

『ガタカ(Gattaca)』という、1997年に公開されたアメリカの近未来SF映画があります。人工授精と遺伝子操作によって優れた知能・体力・外見を持った「適正者」と、自然妊娠で生まれた「不適正者」に分けられている世界が舞台です。

 不適正者として生まれた主人公は、適性者のみに許される「宇宙飛行士」になることを夢見て計画を実行に移していきます。主人公は努力し続け、勉強もし続け、非合法的なことまで行って宇宙飛行士になっていきます。

 しかし、やはり主人公は、遺伝子が予測する特色を自分の中に持っているわけです。不適正者という制度的なハンデをすり抜けて夢を実現していく道というものを含め、宇宙飛行士になりたいというモチベーションを持ったということ自体にも遺伝的な素質があるのです。