ロシア軍によるミサイル攻撃を受けて天井が破壊されたオデーサの教会(3月8日撮影、ウクライナ大統領府のサイトより)

 ロシア・ウクライナ戦争が3年目に入って1カ月が経過した。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月11日、フランスの放送局BFMTVに対し、「前線の状況は過去数か月間よりも良くなっている」と述べた。

 また、ウクライナ軍総司令官オレクサンドル・シルスキー大将も3月21日、ウクライナ東部の「情勢を安定させることに成功した」と述べている。

 つまり、2月17日にアウディイウカを失ったものの、ウクライナ軍に待望の砲弾が届き始めていて、ロシア軍の攻撃を各所において撃退している。戦争は引き続き膠着状態にある。

 本稿においては、この戦争の今後の見通しについて、実際にウクライナを何回も訪問して第一線を視察している専門家の見解を参考に展望したいと思う。

 具体的には、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシニアフェローであるジャック・ワトリング氏とニック・レイノルズ氏、カーネギー財団シニアフェローのマイケル・コフマン氏や元ウクライナ将校のタタリガミ(Tatarigami)氏などである。

RUSIのジャック・ワトリングらの見解

 RUSIのジャック・ワトリング氏とニック・レイノルズ氏は、「2024年を見通したロシアの軍事目標と能力」という論考の中で、以下のように指摘している。

・ロシアの戦力は2024年後半にピークを迎える可能性が高く、2025年にかけて物量的な課題が増加する。

・米国等のウクライナ支援国が2024年にロシアの攻撃を鈍らせるのに十分な弾薬と訓練を提供し続ければ、ロシアが2025年に大きな利益を得る可能性は低い。

 しかし、米国等の支援が十分になければ、ロシアは2024年を通じて安定した攻撃のテンポを維持できるだろう。

・ロシアは依然として、ウクライナを2026年までに征服するという戦略的目標を維持している。

 しかし、ロシアが攻撃作戦のための兵力の質を向上させることができないため、2025年に大きな利益を獲得できないとすれば、2026年までにゼレンスキー政権を屈服させるのに苦労することになる。

・2026年以降になると、システムの消耗によってロシアの戦闘力は著しく低下し始め、その時点でロシアの産業は破壊される可能性がある。

・ロシア軍は2023年、ウクライナで約36万の兵力を擁する非常に無秩序な部隊でスタートした。

 2023年6月のウクライナ攻撃開始までに、この兵力は41万人に増加し、組織化も進んでいた。

 2023年夏、ロシアは国境沿いと占領地に訓練連隊を設置し、ワグネル軍の反乱を受けて部隊の標準化に努め、それまでの私兵化傾向を打破した。

 2024年初頭までに、占領地におけるロシア軍の作戦集団は47万人の兵力で構成された。

・現在、大規模な攻勢は行われていないが、ロシア軍の部隊は少なくともウクライナに安定した損害を与え、ロシア軍が陣地を確保・保持できるような小規模な戦術的攻撃を行うことを任務としている。

・ロシア軍の150万人規模への拡大という願望は実現していないが、クレムリンは、2025年まで現在の損耗率を維持できると考えている。

・ロシアは国防産業を大幅に拡大し、シフトを増やし、既存施設の生産ラインを拡大するとともに、以前は休止していた工場を再稼働させた。

 これにより、ロシアは年間約1500両の戦車と約3000両の各種装甲戦闘車両を軍に納入している。ロシアのミサイル生産も同様に増加している。

・ロシアは、その工業生産において大きな限界に直面している。

 例えば、戦車やその他の装甲戦闘車両のうち、約80%は新規生産ではなく、ロシアの戦時在庫を改修・近代化したものである。

・ロシアが2024年まで一貫した生産量を維持できるが、2025年までには車両により大きな改修が必要になることが分かり始め、2026年までには利用可能な在庫のほとんどを使い果たすことになる。

・ミサイルのような複雑な兵器のもう一つの脆弱性は、西側諸国が調達する部品に大きく依存していることである。