米連邦準備制度理事会(FRB)議長の任期は4年。共和党のブッシュ前大統領が任命したバーナンキ議長の任期は2010年1月末で切れ、民主党のオバマ大統領が人事権を行使する。民主党のクリントン元大統領が共和党のグリーンスパン前FRB議長を再任したように、議長は必ずしも党利党略で決まる人事ではない。バーナンキも共和党色が強いわけではなく、金融危機真っ只中ということもあり、再任される可能性も十分に残されている。(敬称略)
しかし、昨年の選挙で勝利した民主党議員の中には、FRB議長の任命権を「戦利品」と見る向きが少なくない。また、在任中は「神」のごとく崇められたグリーンスパンに対し、バーナンキはそのような評価を受けていない。彼が退任するなら、民主党後任候補の筆頭はサマーズ国家経済会議(NEC)委員長になる。
ワシントン人事の慣例から考えると、ホワイトハウスは今夏、遅くとも9月7日のレイバーデー休暇明けまでに、バーナンキに議長再任の有無を内々告知するだろう。バーナンキとサマーズにとって、向こう6カ月が勝負の分かれ目になる。
名誉挽回、オバマ陣営に猛烈PR
神童の誉れ高いサマーズは、16歳でマサチューセッツ工科大学に入学し、28歳の史上最年少でハーバード大学の専任教授に就任。世界銀行の主任エコノミストを経て、クリントン政権下の財務省でトントン拍子に出世し、最後は財務長官に上り詰めた。
2000年大統領選で民主党が下野すると、ハーバード大の学長に就いたが、ここで大きな挫折を経験する。2005年、「女性蔑視」とも取れる舌禍事件を起こし、翌年に学長の座を追われた。しかし実態は、「反サマーズ」色の強い教授会との政治闘争に敗れた末の更迭劇だった。
「伝統墨守・唯我独尊」の教授会に対しても、サマーズは傲岸不遜で挑発的な姿勢を貫いたため、両者はしばしば衝突していた。「反サマーズ」勢力は舌禍事件をきっかけに不信任案を突き付け、学長追い落しに動いた。全面戦争の結果、学究と実践の両方の世界で常にトップを歩み続けたエリートが初めて一敗地に塗れた。
汚名返上に燃え、ワシントンで返り咲きを狙うサマーズ。民主党予備選と大統領選を通じ、オバマ陣営に対して積極的に自らを売り込んだ。その自己PRの猛烈さは、「オバマの選挙戦以上だ」とも揶揄されていた。
サマーズ復権のカギとなったのが、ルービン(元財務長官)人脈だ。現在、サマーズの右腕となっている民主党系若手エコノミスト、ジェイソン・ファーマンNEC副委員長がその人である。ファーマンはまだ39歳だが、オバマ陣営で首席経済担当アドバイザーを務め、選挙期間中はサマーズと毎日電話で政策を詰めていた。サマーズ入閣は、ファーマンと彼の後見人であるルービンの推薦によるところが大きい。
虎視眈々とFRB議長の座を狙うサマーズ。その戦略上、NEC委員長は極めて好都合のポストになる。ホワイトハウスにオフィスを構え、大統領に上がる情報を管理する権限を持つばかりか、オバマと個人的な信頼関係を築く機会に恵まれるからだ。サマーズがFRB議長に就任すれば、ファーマンにはNECのトップを務めるチャンスが訪れ、その後は財務長官に転出する道も開けてくる。