投票数で3位につけた「花重リノベーション」

 惜しくも受賞を逃したが、一般投票で「学ぶ、学び舎」「天神町place」に次ぐ3番目の票数を獲得した「花重(はなじゅう)リノベーション」(設計:MARU。architecture)も紹介しておこう。ベスト10のうち唯一、新築ではなくリノベーション(改修)の作品だ。

 谷中霊園の前にある明治3年創業の老舗花屋で、道路面の店舗は国の登録有形文化財にもなっている。敷地内には江戸時代の長屋も残る。

登録有形文化財の「花重」店舗。創業150年を超える(写真:和田菜穂子)登録有形文化財の「花重」店舗。創業150年を超える(写真:和田菜穂子)

 リノベーションでは、敷地奥に建て増しされていた倉庫や住棟を減築し、新たに細い鉄骨のフレームを設けた。江戸から明治、大正、昭和、令和へと時代につれて移り変わる建物の骨格を活かしながら、花屋のワークショップスペースやカフェ、庭を望むテラスを設けている。

庭側から見た全景。手前の鉄骨フレームが新設部分(写真:Takuya Seki)庭側から見た全景。手前の鉄骨フレームが新設部分(写真:Takuya Seki)

受賞者が語る“勝因”とは

 発表会&授与式の最後に、会場からの質疑応答が行われた。改めて賞に対する感想を問われ、秋吉氏と伊藤氏が語ったのが、「勝因」だ。

 まずは大賞の秋吉氏から。

「僕らは真面目に“選挙運動”をやりました。いざとなったらXのQRコードを持って街頭演説をしようと用意していたくらいです。建築が専門ではない大学関係者や、日ごろからかかわりのあるスタートアップの人たちが応援してくれて、みんなが建築に興味を持ってくれたくれたことが大きい」

「これをきっかけに、大学内でも改めてこの建築の評価が高まって、プロジェクトの推進力にもなっており、とても感謝しています」

 続いて伊藤氏。

「この賞を勝ち取るための要素の1つは“建築として何を成し遂げたか”という提案力で、それはベスト10の作品すべてにあったと思います。付け加えるならやはり“写真映え”(笑)。その意味で『天神町place』はいいシーンが撮りやすい建築かもしれません。ただ、それはいつも狙っていることではないし、狙ってできることでもありません」

「もう1つの要素は、言い訳に聞こえると困りますが(笑)、“発信力”です。多くの人に建築に興味を持ってもらうために、私たちも発信力を磨かなければいけないと思いました」

会場からの質問に答える秋吉浩気氏(右)と伊藤博之氏(写真:加藤純)会場からの質問に答える秋吉浩気氏(右)と伊藤博之氏(写真:加藤純)

 Xでの公開投票というこれまでにない手段を選んだ、みんなの建築大賞。Xという場の特性が結果に影響を与えなかったはずはない。また投票にあたって、数点の写真と短いコメントでノミネートされた建築を紹介するのには、どうしても限界がある。しかし、受賞2氏の言葉を聞く限り、「建築界以外の一般の人にも建築の魅力を伝えたい」という賞の主旨は伝わっているようだ。

 まずは、受賞作を含む「この建築がすごいベスト10」で紹介された建築たちの魅力が、多くの人に伝わってほしい。そして、来年以降もみんなの建築大賞が(選考方法も含め)発展していくことを願っている。