流域全体でも出力は浜岡原発よりはるかに小さいが…

 大井川にある発電所の最大出力を合計すると約60万キロワットになるが、発電量は雨量に左右されるので、常時発電するわけではなく、年平均では約25万キロワット程度の出力になるという。

 広大な流域の景観を全く一変させるような大がかりな土木工事をして、流域の雨量をほぼ利用し尽くしても、発電の規模としてはこれがやっとだ。近くにある浜岡原子力発電所の3、4、5号機が限られた敷地で362万キロワットの出力を安定して叩き出すことができるのと比較すると、再生可能エネルギーで大量の電気を作ることが如何に大変なことかが分かる。

 大井川の最上流の区間は、リニア中央新幹線が建設される予定となっている。だがそのトンネル工事によって大井川の水が他県に流出するという点を問題視して、静岡県の川勝平太知事が工事に待ったをかけている。JR東海は他県に水が流出しないように工事をするとしている。筆者は、国の有識者会議で報告されている通り、水利用に与える影響は大きな問題ではないと思うが、残念なことにまだ知事の承認を得られていない。 

 リニアについてこれ以上ここで詳しくは書かないけれども、筆者が思いを致すのは、このリニアは全長286キロメートル、総工費10.5兆円の大事業であり、これも多くの人の労働の賜物であり、また完成すれば多くの人々がその恩恵に預かるということだ。それが、この静岡県北部の僅か9キロメートルがボトルネックとなることで、2027年の開業が遅れそうになっている。

 大井川の水利用のための開発は大事業であり、多くの人々が関わった。流域ではその利用を巡っての争いもあった。だが人々は何とか問題を解決して開発を進め、共に安全に、豊かになってきた。 大井川の「とうとい風景」を胸に刻んで、旅を終えた。

筆者の近著『亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル

[参考リンク]
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