大雨や台風の時には現場に行って備える

 大雨が降ると、ダムに水を貯えたり、あるいは水門を開けて放流したりするなど、忙しくなる。遠隔操作ができるようにはなっているが、やはり現場に行って操作したり監視したりする場面も多い。そのたびに細い山道を辿って車で移動することになる。大雨や台風の時には、道が通れなくなることがあるので、そうなる前に行って待機するそうだ。

 訪れたのはちょうど紅葉の季節だった。のんびり山を眺めている分にはとても楽しい気分になる。だがダム管理の職員はそうばかりも言っておられない。

 ダムの取水口近くの格子状のスクリーンは落ち葉でいっぱいになっていた。これを取り除く装置は付いているけれども、それでも大量の落ち葉が押し掛けると詰まってしまうため、人力で取り除くこともあるという。自然相手の仕事は大変だ。

 この大井川沿いに次々に水力発電所が建設されたのは昭和はじめから昭和37年にかけてのこと。それで大井川の水力発電の有望地点はほぼ開発され尽くしたので、新規の発電所は滅多に建たなくなった。水力発電所に勤めている方によると、「日々、ひたすら守りの仕事です」とのことだった。

 ダムと水圧鉄管が並ぶ光景は人工的で、もともとの自然とは全く異なる。だが、それを建設する人、維持する人がいて、それが多くの人の暮らしを支えている。このような人々の労働の跡がしのばれる風景を、かつて民俗学者の宮本常一は「とうとい風景」と呼んだ。大井川を遡る旅は、まさにこの「とうとい風景」の旅だった。

井川ダムの堤体(堤防のこと)の内部は中空になっている。中に入ると巨大な空間が広がる。階段を見ると高さが窺える。筆者撮影井川ダムの堤体(堤防のこと)の内部は中空になっている。中に入ると巨大な空間が広がる。階段を見ると高さが窺える。筆者撮影