(英エコノミスト誌 2023年11月11日号)
長距離ミサイルはもう政府の独占物ではない。
10月31日にイエメンからイスラエルに向かって弧を描いた弾道ミサイルの一群は、いくつかの記録を打ち立てた。
まず、少なくとも1600キロ飛行したことから、攻撃のために発射されたどの弾道ミサイルよりも長い距離を飛んだものと思われる。
ミサイルはネゲブ砂漠の上空でイスラエルのミサイル防衛システム「アロー」に迎撃された。
23年間運用されているアローが地対地ミサイルを撃墜したのはこれが初めてだった。
さらに、2人のイスラエル政府高官によれば、戦闘で発射されたミサイルが宇宙空間で迎撃されたのも今回が初めてだという。
射程距離と命中精度が向上しているミサイルの拡散が中東の軍事情勢を変えつつあることが垣間見える出来事だ。
軍事情勢を塗り替えるミサイル拡散
中東では50年以上前からミサイルが戦闘の一部になっている。
旧ソビエト連邦が開発し、ロケット界の主役となったスカッドミサイルが初めて使用されたのは1973年のヨム・キプール戦争(第4次中東戦争)の終盤で、イスラエルに向けて発射された。
1980年代のイラン・イラク戦争では、いわゆる相互都市攻撃で大変な数のスカッドミサイルが飛び交った。
ある推計によれば、1945年から2017年にかけて戦闘で発射されたミサイル5000発のうち、90%が中東で発射されたものだった。
ミサイルの脅威は今、2つの面で恐ろしさを増している。
一つはミサイルを入手できる主体と入手できるミサイルの数がともに増えたこと。もう一つはミサイル自体の質が向上していることだ。
ミサイルの拡散から話を始めよう。