ジャニー喜多川氏の死後、パンドラの箱が空いたジャニーズ事務所(写真:共同通信社)

 9月7日、ジャニーズ事務所の新社長・前社長が揃って4時間を超える記者会見を開き、これまでの反省と今後の方針を発表した。「うわさでしか聞いたことがなかった」。表に出ているジャニーズのタレントや幹部は、故ジャニー氏の性加害に関して口を揃えて説明するが、ジャニー喜多川氏が他界する最後のわずか数年をともにしたジュニアたちはその内実を克明に語っている。

 東山新社長が「うわさでしか聞いたことなかった」と語るジャニーズ事務所の中では何が起こっていたのか。『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋)を上梓した歌手のカウアン・オカモト氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──2012年2月、ある日曜日の午前中、当時愛知県豊橋市の中学校3年生だったカウアンさんのもとに突然、ジャニー喜多川氏から直接電話がかかってきたと書かれています。

カウアン・オカモト氏(以下、カウアン):あの朝、枕元で電話が鳴って目を覚ましました。当時はまだ、実家の二段ベッドで、弟が下に寝ていた。顔の横でケータイが震え、寝ぼけ眼で見たら知らない電話番号が表示されていた。

 電話に出るとおじいちゃんの声で「ジャニーだよ」と言っていた。起きたてだし、眠かったし、よく意味が分からなかったので、思わず電話を切ってしまいました。

 そうしたら、即座にまた電話がかかってきて、「切らないでよ」「ユー、僕だよ」「世界のジャニーだよ」「ギネスブックにも載っているよ」「本物だよ」と言われた。それで「ジャニーズ事務所の社長か」とようやく理解が追いついてきました。

 まともな自己紹介もなく、突然「履歴書、送ったよね」と言われた。確かに人づてに履歴書を送ったけれど、まさか社長本人が電話をかけてくるなんて思いもしませんでした。

 驚いた次の瞬間には、「今から東京に出てこれる?」と聞かれました。交通費を出すから、東京の国際フォーラムでその日の晩に行われるSexy Zoneのライブを観に来ないかと誘われたのです。

──そのような場合、普通は秘書やオーディションの担当者などが電話してくるものだと思いますが、社長本人が電話をかけてきたのはなぜだと思われますか?

カウアン:もうジャニーさんの中で「この子を入れる」という気持ちが確定していたのだと思います。

 国際フォーラムに到着すると、さっそく会場でジャニーさんと会いました。その場で唐突に「歌ってみて」と言われました。それで、アカペラでジャスティン・ビーバーの「Baby」(2010)を歌いました。

 聞き終えたジャニーさんは、「ユー、今日出ちゃいなよ」と言う。その日のライブにいきなり出演して歌えと言うのです。この時点では、僕はまだまともにマイクを握って歌った経験すらありませんでした。

 オーディションめいたものはあるのかもしれないと思ったけれど、いきなりライブで歌わされるとは思いもしなかった。事前の練習など当然ないし、ほとんど打ち合わせらしいものもなく、MCで突然呼び出され、アカペラで、私服で、5000人の聴衆の前で歌いました。