川崎市のビッグモーター前に残る、街路樹の跡。同社は「過去に店舗で清掃活動の際に使用した除草剤等による影響」があった可能性を認めている(写真:つのだよしお/アフロ)
  • 店舗前の街路樹を伐採・枯死させた問題で、ビッグモーター社に非難が殺到した。街路樹は市民の財産であり、管理方法によっては自治体にも同様のことが起こり得る。
  • 「杜の都」仙台市は良好な街路樹を維持している。同市には、自治体と剪定業者が維持管理の共通認識をもつ仕組みやマニュアルが整備されている。
  • 市担当者によれば、街路樹に関する苦情は実は少なくない。他の自治体でも良い管理法が定着するか否かは、市民に街路樹保全の意識が生まれるかが鍵となる。

(吉永明弘:法政大学人間環境学部教授)

私企業による街路樹伐採に殺到した非難

 今年7月の世間の話題は、ビッグモーター社の保険金不正請求問題だった。この問題を発端に、同社のさまざまな問題が表面化した。同社が店舗前の街路樹を故意に枯死させたり伐採したりしているという問題については、市民やマスコミに加えて、複数の自治体の首長から非難の声が上がった。

 その一方で、都市再開発による樹木の伐採が各地で行われ、署名サイトChange.orgでは多数の反対署名が集まっている。東京では、神宮外苑・日比谷公園の樹木伐採や、千代田区の神田警察通りの街路樹(イチョウ)の伐採が大きな問題になっている。

 またSNSでは、「強剪定」によって丸裸になった樹木の写真が投稿され、剪定の仕方に疑問の声が上がっている。

 市民の財産としての街路樹を、私企業が伐採すると各方面から非難されるが、それならば都市再開発による過度な伐採や強剪定も、同じように戒められるものではないか。

再開発計画に揺れる東京・明治神宮外苑地区。右から国立競技場、解体が進む神宮第二球場、神宮球場、秩父宮ラグビー場。ラグビー場の下はイチョウ並木(写真:共同通信社)

 環境植栽学の第一人者である藤井英二郎氏は、2021年に刊行された『街路樹は問いかける』(岩波ブックレット)のなかで、欧米の都市に比べて日本の都市の街路樹管理のお粗末さを嘆いている。その後、事態は悪化し、現在では各地で強剪定が見られるようになった。

 その藤井氏が街路樹管理の良い例として挙げているのが、宮城県仙台市の管理である。

 もとより仙台市は「杜の都」として名高い。同市にあまり縁のない筆者でも、仙台市内に多数の街路樹が植えられていることは昔から知っていた。

「杜の都」を象徴する、仙台市・定禅寺通の新緑(写真:アフロ)

 では、仙台市は、どのようにして良好な街路樹を維持しているのか。そのやり方は、強剪定を続けている他の自治体でも通用するのだろうか。

 これらの疑問を解くために、8月に仙台市を訪れ、仙台市建設局百年の森推進部公園管理課にヒアリングを行った。

 ヒアリングの前に、街路樹に意識を向けて市内を歩くと、樹木の数もさることながら「大木」が目に付くこと、そして樹木に囲まれた空間が他のエリア(例えば駅前)よりも断然涼しいことに気がついた。

 これは他の街とは明らかに違う、仙台市ならではの特徴だ。