7月9日、首相指名選挙を前に、支持者に挨拶する前進党のピター党首(写真:ロイター/アフロ)

総選挙で勝利した予想外の政党

 タイの新首相選出が大揉めに揉めている。

 タイでは2014年、クーデターが起こり、陸軍司令官のプラユット・チャンオチャ氏がタクシン元首相派の政権を打倒して、実権を握った。首相の座に就いたプラユット氏は、2019年の下院総選挙では、自らが率いる「国家国民の力党」は第二党にとどまったものの、少数政党の協力を得、引き続き首相の座に座り続けた。

 それから4年――。今年5月14日、下院総選挙が行われた。プラユット氏は選挙後も首相を続けたい意向だったが、与党分裂で臨む選挙に勝利する見込みはほとんどなかった。

 選挙前に「勝利確実」とされていたのは、タクシン元首相派のタイ貢献党だった。

 ところが実際に総選挙で最も多くの議席を獲得したのは、徴兵制廃止や王室改革など、より急進的な政策を訴えていた「前進党」だった(151議席)。タイ貢献党も議席を伸ばしたが、141議席と前進党には及ばなかった。

 ただこの両党の議席だけで下院(500議席)の過半数を占める。それだけ国民は、軍の強い影響下にある政権に飽き飽きしていたのだろう。

 そこで前進党、タイ貢献党を中心とし、野党8党による連立政権樹立に向けた協議が始まった。その結果、首相指名選挙では前進党のピター党首を候補者にすることに8党が合意。前進党やタイ貢献党を支持する有権者の期待も高まった。