ご先祖さまをあの世に送り届けるお祭り

 それでお盆を1か月後にスライドさせようということになった。京都を含めた多くの都市で8月13日から16日にかけてお盆の行事を実施しているのは、こんな事情からだ。東京と地方で時期がずれているのは、農家の事情によるものだった。※一部地域ではその限りではない。

 そもそもお盆とは、ご先祖さまの魂をこの世に迎え、回向を手向ける仏教行事である。「魂」というと都会の人は非科学的と思うかもしれないが、お盆は1年の中でもっとも死者の魂を“可視化”できるチャンスでもある。

 たとえば、この時期、仏壇の前に精霊棚を設け、死者がこの世とあの世を往復するための乗り物「キュウリの馬」や「ナスの牛」を用意する。「この世に戻ってきてくれる時は足の速い馬で、あの世に戻る時は名残惜しいのでゆっくり歩く牛で」という願いが込められている。

 お盆には和尚さんに仏壇供養をしてもらうとともに、自分たちもお墓参りをする。さらに、灯籠流しをする地域もある。そして、お盆が明けると再び、ご先祖さまを、あの世に送り届けるのだ。

京都・嵯峨の広沢池で実施される灯籠流し

 そのお祭りが京都の「五山送り火」なのである。盆地を囲む山に送り火を灯し、何十万、何百万人というご先祖さまを一斉にあの世に送る。

 5つの山に「大文字」「左大文字」「妙・法(2つで1山)」「船形」「鳥居形」の送り火が灯される。地元の保存会が山に薪を上げ、数十ある火床に一斉に着火する。つまり「点」の集合で文字を浮かび上がらせている。

送り火の翌日の火床(鳥居形)。京都市内が俯瞰できる