墓は、歴史の証人だ

(鵜飼 秀徳:作家、正覚寺住職、大正大学招聘教授)

墓碑や過去帳には明らかなスペイン風邪の痕跡

 お盆の時期、墓参りに赴く人も少なくないだろう。ぜひ、その墓石に刻まれた情報に着目してほしい。墓には歴史的な出来事や教訓が、詰まっている。たとえば墓をつぶさに観察すれば、私たち人類がどう感染症の恐怖と戦ってきたのか目に浮かんでくるのだ。

 2020(令和2)年から始まった新型コロナウイルス感染症の流行は、私たちのライフスタイルを変える歴史的エポックとなった。わが国だけでも死者は7万4000人以上(2023年5月時点)に上り、多くの人が、いつ何時感染するかもしれないと怯える日々を送った。コロナ禍は、いつ終息するのか。またいつか、別の感染症の恐怖がやってくるのだろうか。

 実は感染症の歴史こそ、「無言の先人」たちが教えてくれている。前回のパンデミックは、1918(大正7)年〜1920(大正9)年に大流行したスペイン風邪。どのように流行し、終息していったのか。それは、死亡記録である墓碑や寺の過去帳に、はっきりと示されている。

 筆者は京都・嵯峨嵐山の寺の住職をしている。大正年間の過去帳をめくってみた。当時の年間平均葬儀数は、6件ほどで推移している。一般的に寺院の年間の葬儀発生率は檀家数の6%といわれている。

 だが、1918(大正7)年は14件、1919(大正8)年は11件、1920(大正9)年は20件と、死亡数が不自然に増えている。増加傾向は4年ほどで落ち着き、その後はスペイン風邪以前の水準に戻っている。

 つまり、寺の墓碑をサンプル調査していけば、過去の感染症がどの地域で、どれだけ感染が広がり、いつ終息していったのかがわかるのだ。これまで感染症がどれくらいのスパンで発生し、平常に戻っていくのか。先人の記録から、将来における感染症蔓延についても学ぶことができるかもしれない。

 感染症と墓碑の関係性を研究したものが、皆無なのが残念だ。拙著『絶滅する墓 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)で紹介した大阪市天王寺区にある一心寺の境内で、私は興味深いものを発見した。