エルニーニョの発生で集中豪雨による被害が大きくなる危険も(写真は2017年の九州北部豪雨:ロイター/アフロ)

(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)

 気候変動問題や地球温暖化に対するニュースが毎日のように報じられている。ハリケーン、台風、豪雨などの自然災害の激甚化、海面水位の上昇、深刻な干ばつや大規模森林火災の発生など、地球温暖化の影響がさまざまな形で表れている。温室効果ガスの排出削減に向けたあらゆる取り組みが各国で進められている。

 そんななか、気象庁は5月12日にエルニーニョ監視速報を発表した*1。これは、毎月1回発表されているものだ。

 5月の速報で注目されたのは、「4月の太平洋赤道域の海洋と大気の状態は、平常の状態と見られるが、エルニーニョ現象の発生に近づいた。今後、夏までの間にエルニーニョ現象が発生する可能性が高い(80%)」と予測していることだ。メディアでは、もしエルニーニョが発生すると、規模の大きなエルニーニョである「スーパーエルニーニョ」になる恐れもあると報じられている。

過去3回発生した「スーパーエルニーニョ」を超える?

 そもそもニュースで目にするエルニーニョとは何か。

 気象庁のホームページによると、「エルニーニョ現象」とは、数年に一度、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけての海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象を指す。数字を使って厳密に言うと、海面水温の基準値との差を、ある月とその前後2カ月の計5カ月の平均値(5カ月移動平均値)としてとったときに、その平均値が6カ月以上続けてプラス0.5℃以上となった場合を指す*2

 エルニーニョは、スペイン語で“男の子”を意味する。毎年、クリスマスのころペルー沖合では北からの暖流により、アンチョビ(カタクチイワシ)が去ってしまう。漁は休みとなることから、沿岸の漁民はこの暖流のことを神の子イエス・キリストの意味で、定冠詞をつけてエルニーニョと呼んでいたという。数年に一度起こる太平洋赤道域の海面水温の高温現象として、この語が用いられている(専門家は、元々のペルー沖合の暖流と区別するために「エルニーニョ現象」と言うが、本稿では単に「エルニーニョ」と呼ぶ*3)。

 一方、「ラニーニャ」という気象用語もよく聞くが、これはスペイン語で“女の子”の意味で、数年に一度発生する太平洋赤道域の海面水温の低温現象を指す。数字を使うと、海面水温の基準値との差の5カ月移動平均値が、6カ月以上続けてマイナス0.5℃以下となった場合を指す。

ラニーニャ現象発生で日本など異常気象の要因に(イメージ画像:NOAA/アフロ)

 実は、エルニーニョもラニーニャも、地球温暖化が注目されるようになる前から数年に一度発生していた。最近では、2018年秋─2019年春にエルニーニョ、2021年秋─2022/2023年冬にラニーニャが発生している。

 ただ、1980年代以降に時折、規模の大きな「スーパーエルニーニョ」が発生するようになった。スーパーエルニーニョは、海面水温が平年に比べて1.5~2℃以上高くなるなど、水温上昇が大きいものを指す*4。これまでに1982─1983年、1997─1998年、2015─2016年の3回発生しているが、発生した場合には大きな影響が出る*5

 気象庁によると、太平洋赤道域の海洋の貯熱量は上昇しており、過去最大級のエルニーニョが発生した1997─1998年のレベルに近づいている、とのことだ。専門家の間では、今回のエルニーニョは、もし発生した場合、2018─2019年のものより規模が大きくなり、1997─1998年のスーパーエルニーニョをも上回る可能性があると言われている*6