「防衛省の寝ぼけ官僚どもめ、何も知らんくせに」

 そして彼は造成工事の現場に案内してくれた。なんと、滑走路を建設するのだという。目の前を巨大ダンプカーが漠々と埃を舞い上げながら走っていた。

切った張ったの山師人生を送ってきた立石勲氏(写真:橋本 昇)
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「俺は以前空港の工事を請け負っていたからスキルがあるんだ。防衛省の寝ぼけ官僚どもは勝手に掘り返したら基地として使えなくなるなどと陰で笑っているらしいが、何を言いやがる。お前らこそ何も知らんくせに」

 滑走路の造成工事は両側の土手を削り取って遥か先の屋久島方向の紺碧の海に吸い込まれるように続いていた。所々に巨大な岩が無造作に転がっていた。工事車両の脇をこの島固有の「馬毛鹿」が横断していく。

「この島の住民は結局のところ鹿に追い出されたんだよ」と、ダンプの作業員が教えてくれた。

馬毛島固有種とされる馬毛鹿。他へ移すと絶滅するという(写真:橋本 昇)
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 島の中央の小高い丘には旧海軍の監視所が姿を残していた。ここから米軍機の来襲を連絡していたのだと思うと時が止まったような不思議な感覚を覚えた。

 つまりは、馬毛島とはそんな島だった。