平成10(1998)年秋場所で20回目の優勝を決め、鯛を手に笑みを浮かべる貴乃花(右)。しかし若乃花は渋い表情だった

テレビ中継の瞬間視聴率66.7%――。今から約30年前、空前の大相撲ブームがあった。若花田(のちの横綱若乃花)と貴花田(のちの横綱貴乃花)の兄弟が人気を集めた「若貴時代」だ。前回の記事「曙・武蔵丸・小錦のハワイトリオ、若貴のライバルが見せた知られざる素顔(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73371)」では、そのブームを支えたハワイ出身の力士たちを紹介したが、今回は主役となった若乃花、貴乃花の実力、後に表面化する家族間の確執などについて振り返ってみたい。

(長山 聡:大相撲ジャーナル編集長)

体重58kgで入門も、多様な力士が人気を盛り上げた

 ハワイトリオのような超巨漢がいる半面、当時は寺尾、旭道山のような、長身で細身のいわゆる「ソップ型」の人気力士もいた。バラエティに富んだ力士がそろい、相撲人気を盛り上げていた。

 そんな2人が平成8(1996)年の夏巡業では、太るための苦労話をしていた。

旭道山「自分の場合、入門した時が58kgだった。当時の新弟子検査は18歳未満は70kg以上でOKだったので、検査まで10kg増やして、あとはスポーツドリンクをいっぱい飲んで何とか合格したんです」

寺尾「野菜と肉をバランスよく食ったってそんなに大きくならない。それは医者の言うことで、本当に体重を増やそうと思ったら、脂っこいものをバンバン食べないと。トンカツとかカツどんとかね。それも幕下以下じゃそんなに金がないから、当時(トンカツ)1個200円ぐらいだったかなあ。あまり上品じゃないから、素晴らしい脂の乗りなんだ(笑)」

旭道山「1回の食事で1万キロカロリー食べたことがある」

寺尾「とにかく腹が減っているのは朝だけ。稽古が終わって目いっぱい食うから夕方の食事の時は食欲ないけど、無理して食う。そしてそのあと食べる夜食の苦しさといったら・・・」

旭道山「うちの親方(当時大島親方=元大関旭国)なんか、腹が頭のヒタイの硬さと一緒になった時が限界と言っていたね。腹を押してちょっとでもへこむようなら、まだ食べられる、ってね」

寺尾「だからボクサーの減量も大変だと思うけど、やせてるヤツが太るのも大変だよ。やったヤツじゃなきゃ、わからないと思うなあ」

旭道山「無理して食っているから、正常だった体のいろいろなデータが、肝脂肪とか肝臓の数値とかボーンと上がっちゃうんですよ」

ともに体重を増やすのに苦労しただけに、仲のよかった寺尾(左)と旭道山

 前回のハワイトリオだけでなく、こうしたソップ型力士が輝いたのも、「若貴」という主役が存在したからだ。