「キナコハスキダヨー、アンコハタベラレナイー」

 モチをなで続けてどれくらい経った頃だろうか、隣のメガネのおばちゃんが、不機嫌に「ちょっと、モチの位置、もっと手前にしてよ!」と文句を言ってきた。思わず「はん?」と感じ悪い返事をする。

 普段なら「高齢者に優しい、近所でも評判の親切な嫁(本人談)」として振舞っている筆者だが、姿勢を崩せないために腰も痛く、首も痛く、モチへの絶望で怒りの言葉には怒りで応じてしまう。

 メガネのおばちゃんは、隣の大学生の兄ちゃんにも「あんた、ちょっと邪魔だよ、ずれてよ」などとイチャモンをつけ、兄ちゃんも「はあ?」とキレ気味に応戦する。

 このように、グループ内に険悪なムードが流れる間もモチは流れる。ラジオでもかけてほしいくらいだが、機械音でかき消されてしまうだろう。世間話をする余裕もない。

 食品工場のパートのおばちゃんが意地悪な理由がこれでわかった。まったく余裕のないサイクルで動かされるからだ。

 1時間が経過した頃、コンベアに流れるモチを目で追い過ぎて、流れているのがモチなのか、自分なのかがわからなくなる。別のおばちゃんも「目が回る、目が回る」と大声を出す。みんなちょっとおかしくなっている。

「キナコハスキダヨー、アンコハタベラレナイー」

 一人陽気に見えるのは、モチをカップに放り込んでいるネパール人のおばちゃんだけ。工場や倉庫で出会う外国籍の女性はだいたい明るく、たくましい人が多い印象だ。

 立ちっぱなしの作業で小休憩もない。時々腕を回したり、足踏みをしたりするも、モチは容赦なく流れ続ける。ようやくお昼休憩になった時には、体全体が鈍痛で休憩室へ歩いていくのもやっとだった。