ウクライナ軍が使用するトルコ製TB2。ロシアのミサイル巡洋艦「モスクワ」撃沈の“影の立役者”の異名も(写真:ZUMA Press/アフロ)

「モスクワ」撃沈を援護射撃したと言われるドローン

 ウクライナ戦争では大方の予想を裏切って、ゼレンスキー大統領率いるウクライナの国民・軍隊がロシア侵略軍に善戦しているが、彼らを支える強力なアイテムが無人航空機「ドローン(UAV)」であることに異論はないだろう。獅子奮迅の活躍ぶりから「ドローン戦争」との声も上がるほどだ。

 深く静かに敵の頭上に忍び寄り、相手の模様をこっそりライブ配信したり、頭上からミサイルをお見舞いしたり、さらには突進して自爆したりと、狙われる側にとってはまさに「恐怖」だろう。

ウクライナ軍が地雷探知に使用するマルチコプター型ドローン(写真:REX/アフロ)

 現在ウクライナ上空を舞うドローンは個人が数千円でこしらえた手作り感満載の“ラジコン”レベルから、1機数億円もする超高価な無人軍用攻撃機(UCAV=ユーキャブ)まで千差万別、多種多様である。そこで特に押さえておきたい機種をピックアップし、その概略を見ていこう。

 余談だが「ドローン(drone)」とは英語で蜜蜂(特にオス)の羽音「ブーン」を意味する。なかなか的を射たネーミングだ。

 ウクライナ戦争で一番名を上げたのは、やはり「バイラクタルTB2」だろう。ドローン先進国トルコの名機で、その活躍ぶりから導入を希望する国が殺到して価格もうなぎ登りらしい。

バイラクタルTB2(写真:Baykar)

 一見ごく平凡な固定翼型だが豊富な実戦経験はドローン界でもトップクラスだ。2010年代半ばの初飛行後すぐさま隣国シリアやリビアの内戦に実戦投入され、さらに2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアによるナゴルノ・カラバフ紛争にも参戦。トルコが支援するアゼルバイジャンに供与され、アルメニア軍のロシア製戦車が同機のミサイル攻撃で次々に火を噴く映像が世界中を駆け巡った。このため軍事の世界ではちょっとした「TB2ショック」に見舞われたほどだ。

 TB2はいわゆる「中高度長時間滞空型(MALE=メール)」に分類されるドローンで、約8000mの上空を時速130kmの巡航速度(最高時速は220km)で最大27時間も滞空できる。さらに人工衛星で中継して無線通信すれば4000km以上の長距離飛行が可能という点が特徴だろう。

 体格も比較的大柄で、全長6.5m、全幅12m、最大離陸重量650kgに達するが、これは有人小型機の代名詞でもあるセスナ機(セスナ185/全長約7.9m、全幅約11m)とほぼ同じだ。機体後尾にプロペラを備え、各種カメラやセンサーによる偵察・探知任務はもちろん、レーザー誘導の精密誘導爆弾やロケット弾、長射程対戦車ミサイルなどを最大150kgまで搭載しての攻撃任務も得意である。

 ウクライナは今回の戦争以前の2019年から同機を実戦配備しており、ロシア侵略軍の戦車部隊の攻撃にも積極的に活用しているが、2022年5月のロシア海軍ミサイル巡洋艦「モスクワ」撃沈のさい、一説には同機が陽動(おとり)作戦を加えて「モスクワ」の防御システムを攪乱、この援護射撃のお陰でウクライナ軍が発射した“本命”の地対艦ミサイルは迎撃されることなく同艦に見事命中した、とも言われている。