文在寅大統領とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 ウクライナのブチャでロシア軍がウクライナの民間人を大量に虐殺した事件で、世界各国がロシアを強く非難している。そうした中で、一種独特の立場を取っているのが韓国だ。

 公式的立場でロシアに言及もしないまま、状況に対して「深い懸念」を表すにとどまっており、西側主要国と人権の価値観を共有できない国であることを露呈している。

韓国政府、ブチャの虐殺を見てもロシアの名を出さず「懸念」のコメントのみ

 ブチャ大虐殺に対する、韓国政府の公式見解は外交部の報道官声明に表れている。同声明では「わが政府はウクライナ政府が発表した民間人虐殺状況に対し深い懸念を表明する」「戦時の民間人虐殺は明白な国際法違反」という簡潔なコメントがあるのみである。

 さらに続けて「独自的な調査を通じた効果的な責任糾明が重要だという国連事務総長の4・3声明を支持する」と述べたが、ロシアを名指しもせず、非難もしていない。この「独自の調査を通じた効果的な責任糾明が重要だ」とする韓国の立場は、世界各国の目に「中国と一緒になったロシア擁護に映りかねない」と韓国国内でも批判が出ている。

 国連の安全保障理事会で中国の張軍国連大使は「民間人が犠牲となった映像には背筋がぞっとする」としながらも「事件の原因検証が先」と述べ、「結論が出るまでは事実に基づく批判だけをしなければならない」とロシアの立場を擁護した。中国はロシアのウクライナ侵攻に関する国連総会決議の時も棄権しており、もちろん欧米のロシア制裁にも加わっていない。

 その中国を世界は冷ややかな目で見ているのだが、韓国がそうした中国と同一視されかねないことに文在寅大統領は何も感じないのだろうか。