さらにここで、あるネットユーザーが、「家族捜索願い」サイトから、彼女と顔立ちが非常に似ているという女性の写真を持ち出してきた。「失踪」した家族の情報をネット上で求めるサイトで、そこに李瑩という、1984年生まれ、1996年に「失踪」した女性が登録されていた。当時、四川省南充市在住の小学校6年性であった李瑩は、ある日、学校にいったきり、行方不明になったという。1998年に15歳、というのであれば、年齢的にはほぼ合っている。中国は通常「数え年」を使う。

一人っ子政策下で8人出産の不思議

 中国で人口抑制政策「一人っ子政策」が撤廃されたのは2015年だ。それまでは多くの地域で、複数の子供をもうけた夫婦は、超生(超過出産)に対して厳しい罰金が課された。また、懲罰のように強制不妊手術や強制堕胎手術を受けさせられるケースも数多く報告されている。そういった女性たちの人権を守ろうとした人権弁護士らが当局に弾圧され迫害されてきた。その中には私の知り合いもいる。

 それほど過酷な一人っ子政策下で、なぜこの女性は8人も子供を生むことができたのだろう。地元当局が黙認していたとしか考えられない。

 しかも民政部、財政部などの関連部門が確認したところ、2014年5月から今にいたるまで、董家が貧困家庭であるという理由で生活保護と住民医療保険政策による援助を実施しているという。この制度によって、毎年春節、そして中秋節のタイミングで慰問金が渡され、また8人の子供のうち3人については毎学期ごとに1人当たり750元の生活補助金、別の2人の子供については毎学期ごとに500元の政府援助金を給付しているという。

 2021年に鎮政府から老朽家屋改造補助費として3.7万元を受け取り、新しい家も建てた。その他、さまざまな慈善団体から寄付を受けており、古着の山などが家の中にある様子も動画に出てくる。これは一般論ではあるが、中国の農村では、こうした公的扶助にはしばしば村役人の汚職利権が絡んでいる。

 彼女が流浪の物乞いであったというなら、なぜ物乞いをしていたのか、彼女の生みの親や親戚たちはどこにいるのか。なぜ精神疾患を患っているのか。なぜ地元政府は最初、うその説明をしたのか。中国ネットユーザーでなくともモヤモヤする話なのだ。