戦後、先進国のキャッチアップをすることで成長してきた日本。しかし、ここにイノベーションが生まれない理由があると、同志社大学政策学部教授の太田肇氏は指摘する。なぜ、日本はいつまでも変われないのか?

(※)本稿は『同調圧力の正体』(太田肇著、PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです。

組織と個人の蜜月時代が終わった

 振り返ってみると昭和の時代は、組織と個人にとってまれにみる共存共栄の時代だったといえるだろう。個別の問題はあるにしろ、組織が成長し、繁栄することはメンバー個々人の利益にもつながった。そして組織の同調圧力も、その効果や必要性が実感できるだけに抵抗も小さかった。

 ところが時代の変化によって組織と個人の利害が必ずしも一致しないケースが増えてきた。「蜜月時代」の終焉である。蜜月時代のつぎに訪れたのは、組織による引き締めの時代である。その意味で共同体主義がいっそう露骨になったといえる。

 1989年(昭和64年)1月7日、昭和天皇の崩御によって長く続いた昭和の時代が終わり、平成という新たな時代の幕が開いた。

 平成とほぼ同時にスタートした1990年代。世界に視野を広げれば、1989年にベルリンの壁が崩壊し東西冷戦が終結した。そしてインターネットの普及に代表されるIT革命により、グローバル化、ボーダレス化がさらに加速した。

 そう、平成時代の始まりを告げる1990年代を象徴するキーワードは「グローバル化」「ボーダレス化」「IT化」である。

 けれども日本社会の動きはこうした世界の潮流と連動しないばかりか、むしろ逆行するかのような様相さえ呈した。

 象徴的な写真がある。某大企業の入社式風景を平成初期と現在とで比較した写真をみると、平成初期の写真は服装も髪型も個性的で、会場は自然な笑顔に溢れている。

 いっぽう、現在の写真は全員がリクルートスーツに身を固め、髪型も一緒。マナー研修で教えられたとおり背筋をピンと伸ばして手を前に組み、緊張した面持ちで視線をまっすぐ前に向けている。

 この会社が特異なわけではなく、どこの会社にもみられる変化のようである。そして外見の変化があらわすように、現場の声に耳を傾けてみても同調を促す社内の圧力が強まったことがうかがえる。

 背景には社会全体の空気がいっそう内向きになったことがあると指摘する人が多い。1995年に発生した阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災を機に、「絆」という言葉が独り歩きし、運命共同体的な連帯が称揚されるようになったことも大きい。