信用バブルが崩壊し、レバレッジ礼賛の時代は過ぎ去った。宴(うたげ)の後は、第2次大戦後最悪の金融危機だけが残り、収束の兆しはまだ見えない。それを乗り越えられれば、国際金融界は厳しいルールの下で安定的な、見方によっては「退屈な」10年(あるいは数十年)を迎えるだろう。
今後の規制強化では、「高過ぎるレバレッジ」と「過度のリターン期待=強欲」をどう抑えるかが焦点となる。対象は、国境を越えて活動するヘッジファンドや巨大銀行に限らない。日本では個人投資家が投機的取引に向かう傾向があり、リテール金融に対する包囲網が狭められ始めた。
まず、金融庁が標的とするのは、外国為替証拠金取引(FX)。今年、FX業界に対する抜本的な規制強化に乗り出す。顧客から預かる証拠金の分別管理を徹底させるため、「全額信託保全」を義務付ける方向。業界の反発は強いが、金融庁はレバレッジ倍率、それ自体の制限もちらつかせ、押し切る構えだ。
為替取引には、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)のほか、通貨当局の意向が色濃く反映するため、短期の上がり下がりを読むのは極めて難しい。中でも、FXは借入金を組み込んで取引額をかさ上げするため、一段とリスクが高い。金融庁のある幹部は「たとえ混乱期でなくとも、投機性が強い」と指摘する。
「暴風雨」突っ込む個人投資家、金融庁は「自殺行為」
しかし、日本国内のFX人気はとどまることを知らない。矢野経済研究所の分析によると、口座数は2008年3月末で前年比9割増の123万件。今年3月末には、さらに4割以上増えて179万件に達する見通しだ。大手証券会社の幹部は「株式や投資信託の損失穴埋めを狙うかのように、短期ハイリターンを求める個人投資家がFXに集まっている」と明かす。
2007年夏のサブプライム問題の表面化以降、為替市場のボラティリティー(変動率)が拡大した。昨年9月のリーマン・ショック後は、ユーロ下落に歯止めが掛からない。今の株式市場が「凍った荒野」ならば、為替市場は「暴風雨の最中」。そこに突っ込む個人投資家は、金融庁の目指す「貯蓄から投資へ」どころか、「貯蓄から投機」の衝動にとりつかれている。前述の金融庁幹部は、手持ち資金に乏しい個人の高レバレッジ取引を「自殺行為に近い」と言い切る。
古今東西、個人の欲望を抑えることは難しい。日本のFX業者はブームを煽っていないか、保護体制は十分なのか。勢い、金融庁の矛先は業界へ向かう。
2005年の改正金融先物取引法の施行に伴い、FX業者に対しては顧客資産の分別管理など利用者保護が義務化された。しかし、2007年10月以降、市場混乱のあおりで破綻する業者が続出、投資家の証拠金が傷ついた事例が目立った。
昨年、証券取引等監視委員会が行った重点検査では、FX業者の6割に財務・リスク管理上の問題があると判明。関係者によると、「当局への報告で(電子データの)PDFを改竄したケースも発覚し、衝撃が走った」という。