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半導体受諾生産の世界最大手、台湾の「TSMC」(写真:ロイター/アフロ)

(文:有吉功一)

過熱する政府主導の投資競争に、過剰供給と「ブーム・アンド・バスト」への警戒感が高まっている。

 世界的な半導体不足を受け、各国・地域が大規模なてこ入れ策を相次いで打ち出している。それでも半導体製造にかかる資金はなお不十分だ。設備の新設には約2年を要し、自動車からゲーム機、サーバーに至るまで、拡大の一途をたどる需要を直ちに満たす即効薬はない。2023年まで半導体の需給は改善しないとの見方もある。一方で、過剰投資の結果いずれ需給がだぶつき、値崩れを起こすリスクも否定できない。巨額の公的資金による支援は「半導体社会主義」とも呼ばれているが、最終的にはメーカーがリスクを負うことになる。

半導体不足は長期化する

「需要は引き続き強く、供給は引き続きひっ迫するため、半導体不足は2022年、さらには2023年まで続くとみている」

 米調査会社フォレスターのバイスプレジデント、グレン・オドネル氏は今年4月、ブログにこう綴った。

 世界的な半導体不足の一因となったのは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だ。

 ロックダウン(都市封鎖)など各種の制限措置やリモートワークを背景にパソコンやゲーム機器の需要は急拡大。スマートフォンやクラウドサービス用のサーバーの需要も引き続き旺盛だ。

 コロナ禍に伴って一時大幅に落ち込んでいた自動車生産は、昨年春先以降に急回復。このため車載半導体は一転、供給不足に陥った。

 中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国の制裁を受け、中国企業の間で半導体在庫積み増しの動きが広がったことも供給ひっ迫に輪をかける結果となった。

 オドネル氏は、「パソコンの販売増は幾分鈍化するが大幅にではないだろう。昨年低迷したデータセンター向けの投資は再び拡大し、最先端のコンピューター技術は新たな『ゴールドラッシュ』の場となるだろう。あらゆる機器への欲望はとどまることを知らず、クラウドコンピューティングや暗号資産(仮想通貨)の採掘は拡大するだろう。半導体チップの需要はブーム期が続くとしか言えない」と指摘する。

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