人がいなくなったマレーシアのスーパー(写真提供:坂下浩盛さん、以下同)

(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 マレーシアで新型コロナウイルスの感染が急拡大している。政府は6月1日から全国レベルでロックダウン(都市封鎖)を実施するなど厳しい規制を打ち出しているが、一部には「規制疲れ」の声もある。今回の感染拡大局面で、政府の規制は有効に作用するのだろうか。

 マレーシアで新規感染者数が急増した理由は、感染力の強い変異株の蔓延以外に、旧暦の新年行事や宗教行事が大きく影響したようだ。マレー系や中華系、インド系などさまざまな民族が居住しているマレーシアでは、各民族の独自の祝日や祭りが行われる。今年(2021年)2月中旬には春節があり、4月中旬にはラマダン(イスラム教徒の断食月)が始まり、5月半ばにラマダン明けの最大行事であるハリラヤ・プアサが行われた。

 首都クアラルンプールで11年にわたり飲食店を経営する坂下浩盛さんは、「春節期間中、中華系の人たちは親戚・友人たちと集まっていましたし、イスラム教徒のマレー人たちは断食期間中も仲間たちと飲んだり食べたりしていました」と話す。ラマダン中であっても日が沈めば飲食ができるとあって、複数人が集まっての会食があちこちで行われた。こうして各地で行われた会合、会食によって感染が急拡大したとみられる。5月29日のマレーシアの新規感染者数は9020人にのぼり、人口比でインドを超えた。

 興味深いのは、坂下さんが「マレーシア政府はそうした会合、会食を厳しく取り締まりませんでした」と語っていることだ。マレーシア政府は、新型コロナ対策としてこれまで厳しい規制を打ち出してきたが、意外と“緩い”一面も覗かせている。