フェアトレードラベルのついたコーヒーを手に取る消費者

(潮崎真惟子:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長)

 日本では気候変動を巡る「脱炭素」の取り組みに注目が集まるが、グローバルな企業の関心事は気候変動だけでない。欧米を中心にビジネスにおける人権侵害リスク対応を求める法整備が加速していることも背景に、環境・人権面に配慮した消費やサプライチェーンの構築が重要視されている。その一つのツールとして注目されるのが、脆弱な立場に置かれている開発途上国の生産者の生活改善や人権配慮、環境保護、そして適正な価格での取引を実現する「フェアトレード」の仕組みである。

 企業の存在理由は、この10年で利益追求から「社会価値と企業価値の創出をどう両立させるか」に変わった。その中で、企業はどのようにフェアトレードを実践しようとしているのか。フェアトレード・ラベル・ジャパンが実施したパネルディスカッション「ビジネスから見るサステナブル消費の価値と拡がり」の内容を基に、日本におけるサステナブル消費の現状と日本における課題、先進的な企業がどのような活動をしているかを見ていこう。

※当パネルディスカッションでは、楽天CWO(Chief Well-Being Officer)の小林正忠氏、イオンで環境・社会貢献担当の責任者を務める三宅香氏、フェアトレード認証コットンタオルの生産・販売に取り組むホットマンの坂本将之社長がパネリストを、またオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介CEOがモデレーターを務めた。

確実に拡大しているサステナブル消費

 欧米に比べてだいぶ遅れたが、地球環境やビジネスの持続可能性というイシューにおいて、ようやく日本も国際的な取り決めにキャッチアップしつつある。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル宣言」、そして調達における児童労働や強制労働の禁止など企業の変革を図る「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を日本政府が2020年に相次いで策定したのはその現れだ。

 それでは、欧米で既に本格化しているフェアトレードやサステナブル消費についてはどうだろうか。中学の国語の教科書に「エシカル消費」という言葉が載るようになったが、日本でも本格的に浸透するのだろうか。

小林正忠氏(以下、小林):私は、サステナブル消費が当たり前になりつつあると感じています。

 楽天グループは2018年にサステナブル商品を集めた「Earth Mall with Rakuten」というインターネット・ショッピングモール&オンラインメディアを立ち上げました。具体的には、水産資源や海洋環境を守って獲られた水産資源に対する認証である「MSC認証」や適切に管理された森林の木材であることを示す「FSC認証」、持続可能なパーム油の認証である「RSPO認証」、そして「国際フェアトレード認証」など、8つの国際認証を取得した商品を掲載しています。

 2018年11月の開設当初と比べて商品点数は10倍になりましたし、ページへのアクセス数も1年で5倍になりました。まだ「選ぶ楽しみ」というほどの商品点数ではありませんが、確実にサステナブル消費は増えています。

左から時計回りで、モデレータを務めたオウルズコンサルティンググループの羽生田氏、楽天の小林氏、ホットマンの坂本氏、イオンの三宅氏

三宅香氏(以下、三宅):私もサステナブル消費の拡大を感じます。イオンの場合、サステナブル商品は2005年頃から扱っていますが、当時は1〜2商品しかありませんでした。それが、今では水産物であればプライベートブランドの2割弱を占めるまでになっている。品川シーサイド店のような大型店では棚一つを国際認証を得た商品が占めています。この数年で、サステナブル商品が店舗で「見える」ようになってきました。これは大きな変化です。

坂本将之氏(以下、坂本):弊社の場合、フェアトレード認証コットンタオルの製造・販売を始めた2014年と比べる販売数は2.6倍に増えました。ただ、伸びという意味で言えば、急成長というほどではありません。また、販売の半分以上はサステナブル意識の高い企業のノベルティやホテルの客室タオルとしての購入で、個人の購入という意味ではまだまだだと感じています。意識の高い企業が先行しているというのが現状ではないでしょうか。