最高益を稼ぎ出す任天堂やファーストリテイリング、日本マクドナルドなどには及ばないものの、100年に1度と言われるこの悪い経済環境下でも高い収益力を身につけている精密機械メーカーがある。一眼レフカメラ用のズームレンズを主力製品とするタムロンだ。

埼玉県さいたま市にあるタムロンの本社

 2008年9月に発売したAPS-Cサイズデジタルカメラ交換レンズ「B003」は、世界で最もズーム比率(広角18mm~望遠270mm、15倍ズーム)が高い。35mmの銀塩フィルム判のカメラに換算すると、広角28mm~望遠419mmと昔のカメラファンには考えられないようなズームレンズだ。同社独自の手振れ補正機構を内蔵し、望遠でも手振れを抑えた撮影ができる(文末のインタビュー参照)。

 タムロンの2008年12月期の売上高は625億3700万円で前期比8.3%減。営業利益は61億9800万円と前期より29.5%減少した。昨年後半からの世界的な大不況、円高の影響を大きく受けた格好だ。それでも売上高営業利益率は約10%ある。今年も減収減益を予想するが、約8%の利益率は確保する見通しだ。

 トヨタ自動車ですら2009年3月期決算は巨額の赤字を予測するように、日本を代表する輸出産業である自動車、機械、電機メーカーを取り巻く環境はここ数十年間なかったほど厳しい。その中で、交換レンズというカメラの “部品” を作る精密機械メーカーがこれだけの利益率を出すのは容易なことではない。

ここ数年で社員の給与は2倍に

「社員を最優先した経営」を掲げるタムロンの小野守男社長

 しかも、ここが重要な点だが、多くの日本企業がこの10年余り好業績の時でも賃金上昇を抑えてきた中で、タムロンは賃金を上げてきた。それも半端な金額ではなく、「この数年間で、2倍にしていると思います」と小野守男社長は言う。

 「少し前のボーナス闘争の時、組合の要求額が私が出そうと考えていたよりかなり低かったので、組合の委員長をこっそり呼んで、もうちょっと要求したらどうだと言ったんですよ。そしたら明くる日の朝、人事部長が申し訳なさそうに飛んできましたよ。組合の要求額が上がったようです。申し訳ありませんって」

 米国の住宅バブルがはじけるまで、日本の数多くの企業が最高益決算を発表していたが、その中味は賃金を抑えて利益をかさ上げしてきた要因が大きかった。一方で配当を増やしたり自社株を買ったりして高株価を演出してきた。経営者は様々なコメントを発するが、結果的には投資家を最優先した経営を志向してきたわけだ。

 タムロンももちろん投資家に対しての配慮は怠らない。しかし一方で、結果を出せばきちんと社員に報いる。この点が同社がこの経済環境下でも高い利益率を維持できている最大の理由である。

 日本企業なら当たり前のことだったはず。しかし、いつの間にか多くの日本企業で「社員あってこその企業」という考え方が風化してしまっていた。

 タムロンの小野社長は、ある意味愚直なまでにこの点にこだわってきた。社員を最も大切にする経営である。愚直と書いたのは、経営者の耳元でささやく甘い誘惑に乗らなかったという意味だ。