いくらの立ち退き料を請求したのか

 この橋の開発は10年前から始まり、周辺の住民はとっくに立ち退いている。残されたのは、屋根の瓦を雑草が覆うこの古い家だけだ。

 家主は「区政府とは条件が合わなかっただけで、条件が満たされればいつでも出ていく」としているが、中国の人々はその「条件」、すなわち立退料を一体いくら要求しているのかが気になってならない。ネット上では「最低でも400万元(約6000万円、1元=15円)は要求したはず」「800万元ではないか」「いやいや1500万元はくだらないだろう」などと憶測が飛び交っている。

 中国では土地を国家が所有しており、人民政府が批准すれば、土地行政の主管部門は土地の使用権を取り戻すことができる。ただしその場合は、使用権を保有する者に対して「適切な補償」を与えることが土地管理法に定められている。だが、この「適切な補償」とは一体いくらなのかが明確に規定されていない。そのため、立ち退き交渉の金額は往々にしてべらぼうな金額に吊り上がる(筆者注:日本の住宅の立ち退きは家賃の6カ月分が相場といわれている)。

 立ち退きが指定された世帯にとっては、一夜にして大金が舞い込む人生最大のチャンスである。デベロッパーあるいは地元政府が1軒1軒回って交渉に臨むが、住民らの間には、「最初の契約者になるべきではない」という不文律がある。契約が後になるほど、金額を吊り上げられるからだ。そのため誰もが「最後の契約者」になることを切望している。

 しかし、あまりに度を越した値段をふっかけると、契約交渉は決裂する。海珠涌大橋の釘子戸もこのケースとみられる。欲の皮が張りすぎて、「一夜にして億万長者」の夢が吹っ飛んだのだ。

立ち退き成功率が100%だった時代も

 改革開放政策が始まった1979年から2000年代にかけて、中国では地方政府による立ち退き交渉の成功率はほぼ100%だと言われてきた。それでもこうした立ち退き拒否住宅はまれに出現した。