アメリカ・バージニア州にある国防総省本庁舎

(北村 淳:軍事社会学者)

 トランプ大統領は2018年2月に核戦略の見直しに関する方針を打ち出した(アメリカ国防総省「Nuclear Posture Review」)。その眼目はアメリカ軍に低出力核を配備させることであった。

 先週(2020年2月4日)、アメリカ国防総省はアメリカ海軍潜水艦に低出力核の配備を開始したことを公表した。これによって、トランプ政権が打ち出した新核戦略の具体的な第一歩が踏み出されたのである。

低出力核弾頭「W76-2」の攻撃力

 このほどアメリカ海軍潜水艦に配備され始めた低出力核とは、「W76-2」と呼ばれる熱核弾頭(水素爆弾)を装着したトライデント弾道ミサイル(「UGM-133 Trident-II」、以下「トライデント」)を指す。

 弾道ミサイル原子力潜水艦(戦略原潜)の発射装置に装填され海中から発射されるトライデントは最大射程距離が12000kmで、アメリカ沿海域からロシアと中国全域(それにイランや北朝鮮)を含む世界の大半を攻撃することが可能だ。

海中から発射されたトライデント(写真:英海軍)

「W76-2」は既存の「W76-1」をベースに開発された。トライデントの核弾頭は、MIRV(多目標独立攻撃可能再突入体)と呼ばれる複数の熱核爆弾を装着する方式であり、それぞれのトライデントには1~8発の「W76-1」が装填されている。1つあたりのW76-1の核出力は90キロトンであるため、トライデントの破壊力は最大で720キロトンということになる。広島攻撃に用いられた原爆「リトルボーイ」の出力は15キロトン、長崎攻撃に用いられた原爆「ファットマン」の出力は21キロトンと言われているのでトライデントの攻撃力がいかにすさまじいものであることかが理解できよう。