進む2号機の開発、「宇宙工学の梁山泊」が目指すのは?

 技術開発だけでは衛星ビジネスは成り立たない。QPS研究所は技術者集団であり、ビジネスに関しては素人だった。そこへ2016年3月、ビジネスの専門家が経営陣に加わった。ハーバード大学経営大学院でMBA取得、産業革新機構で「スタートアップに資金調達をする側」の人物だった市來敏光氏(43)が、取締役・最高執行責任者(COO)に就任したのだ。

 さっそく資金調達に動くも、「小型のSAR衛星とは何か」が伝わらない。50社以上回っても見向きもされず、大西氏と市來氏は米国シリコンバレーへ飛ぶ。そこで2人は熱烈な歓迎を受ける。「世界で小型SAR衛星は注目されている。やろうとしている世界は間違ってない」と確信した直後、米国の小型SAR衛星ベンチャーが資金調達に成功。世界の流れを見て動くのが日本。2017年10月、QPS研究所は23.5億円の資金調達に成功した。

 初号機「イザナギ」は無事に宇宙に飛び立った。だが喜ぶのもつかの間。きちんとアンテナが開き、データをとり、商品として使えることを見せていかなければならない。データ解析については、自社で行わず専門家と組む予定だ。初号機開発で得たフィードバックを2号機「イザナミ」に反映し、2020年前半の打ち上げを目指して開発と試験が進行中だ。今後の課題は人材。「特にソフトウェアの人材、海外にデータを売っていく人材を求めています」(大西氏)。

 JAXA新事業促進部 事業開発グループ長 上村俊作氏は、2005年にQPS研究所が創業された頃から見守ってきた1人。「資金調達を行い、地場企業、異分野からの若い人材も巻き込みながら、大学発ベンチャー(民間)としてビジネスの一歩を踏み出したことはとても感慨深い。今後、事業価値向上に向け、JAXAもQPS研究所さんに寄り添い、伴走しながら共創していきたい」と期待する。

 JAXA新事業促進部の上村俊作氏は鹿児島県出身、九州大学卒業で九州への思い入れは強い。

 宇宙開発パイオニアの技術と精神を引き継ぎ、異業種と手を携えて、宇宙ビジネスの大海原へ。その根底にあるのは故郷、九州への思いと矜持。小型SAR衛星は第一歩にすぎない。「宇宙の可能性を広げて人類の発展に貢献する」という壮大な理想を掲げ、宇宙工学の梁山泊(豪傑や野心家の集まり)の航海が始まった。

(第2回へつづく)