恐れていたことが起こった。というより、それは時間の問題だった。

 福島第一原発から70キロメートルも離れた福島県天栄村で育った牛の肉から、食品衛生法の規制値を超える放射性セシウムが検出されたと、厚生労働省から3月31日に発表されたのである。

 ところが4月1日の同省の発表では、再検査の結果、検出されなかったという。検体は同じ肉牛のもも肉とサーロインだった。

 同省では「2回の検査でなぜ異なる結果が出たのか、検査過程に問題がなかったかどうかを含めて調査したい」としている。しかし4月7日現在、その後の続報はない。

 再検査でシロだったのだからほっと一息、とするのは早計である。

 これは日本の畜産業にとって、いや農業にとって未曽有の危機を孕む問題なのだ。

 一度はクロとされた肉は、3月15日に郡山市で屠畜・食肉加工された。もも肉から1キログラム当たり510ベクレルの放射性セシウムが検出されている。ちなみに暫定規制値は500ベクレルである。

 まず厚生労働省の検査の精度について検分してみよう。

 検体となった牛は「同じ牛」と言っているものの「同一の部位」とは言っていない(1回目、2回目ともに「もも肉」が検査されているが、異なる部位の可能性はある)。ゆえに結果は異なってもおかしくない。同じ牛の同じ部位はどうだったのか。

 次に、「検出されなかった」という表現。これでは「基準を超えたものがなかった」のか、「検出限界以下だった」のか明らかでない。ここに大きな疑問が残る。

 そもそも放射性セシウムはどこから来たのか。天栄村がシロだとすると、食肉処理された郡山市の食肉加工場で汚染されたということになる。ということは、郡山市に集荷された牛はすべてグレーということだ。

 しかし、そこに関して厚労省から一切情報は発信されてない。風評被害を拡大させないことだけに躍起で、調べることさえしていないのかもしれない。