「本流トヨタ方式」の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」の4項目に分けて説明しています。

 先回に引き続き、「(その4)現地現物」について説明します。

 まず、この度の大地震と大津波、加えて原発事故で被災された皆様に謹んでお見舞い申し上げます。地震発生から間もなく4週間が経とうとしていますが、被災者の皆さんの不屈の精神によって「復興」への着実な動きが見て取れるのは、頼もしい限りです。

 前回、何も考えずに「復旧」という言葉を使ってしまいましたが、二度とあのような惨事を起こさないよう、知恵と工夫によって21世紀に相応しい郷土をつくる、という意味を込めて「復興」という言葉に変更させていただきます。

 今、「復興」に向けての様々な活動が始まっていますので、今回は、いくつかの諺を取り上げながら、「本流トヨタ方式」から見た「危機への対処法」「いつもとは違う仕事への取り組み方」についてお話ししたいと思います。

徹底的に情報を開示するのがチャーチル流

 論語の「由らしむべし、知らしむべからず」という言葉は、「民に理由を知らせても混乱するだけだから、やるべきことだけを教えればよい」という意味に使われています。

 これは日本の為政者の伝統のようで、太平洋戦争時、大本営発表はいつも「敵に大打撃を与え味方の損傷は軽微」だったと教わりました。この伝統が、どうも今回の原発事故対応にも見え隠れしているようです。

 これと正反対の政治をしたのが英国のチャーチル首相です。ヒトラーがヨーロッパ戦線で勝利を挙げている頃、「ヒトラーは間もなくイギリスに攻めてきて、わが国土が戦場になるであろう。祖国の街路や野原でも戦いは繰り広げられるだろう。しかし、我々は最後まで戦い続ける。勝利を得るまでは決して屈しない」と、最悪の事態を想定した大演説をし、国民の心を一つにしたといいます。

 航空機や新型ミサイル兵器「V1」「V2」の爆撃を受けると、葉巻をくわえて悠然と現地に表れ、Vサイン(日本ではピースサイン)で国民を勇気づけ、その一方で外交手腕を発揮し、アメリカを味方に引き入れ、ドイツとの戦いに勝利したのでした。