「本流トヨタ方式」の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」の4項目に分けて説明しています。

 先回に引き続き、「(その4)現地現物」について説明します。

 まず、この度の大地震と大津波、加えて原発事故で被災された皆様に謹んでお見舞い申し上げます。同時に、この未曾有の困難の中で希望を捨てず復旧のために懸命に努力されている皆様の姿に心からの敬意をはらい、1日も早い復旧をお祈り申し上げます。

復興に向けた頑張りを世界が見ている

 「疾風に勁草を知る」という言葉があります。

 「ふだんは同じに見える草でも、強い風が吹くと、風になびく草と、毅然と立っている草があるのが分かる」という意味です。

 筆者にとっては、約30年前、新工場を建設して新組織を編成し、新型車「ソアラ」を立ち上げた時、豊田英二社長がつぶさに工場を見て回った後、管理職を集めてねぎらいながら言った言葉でもあります。

 豊田英二社長の口から発せられたその言葉は、「立ち上がりで苦労をかけたが、風になびいた人か、踏みとどまってことをなした人か、社長の私には見えている」と聞こえました。新任課長として一番難しい組立工程を担当していた筆者は、きつかった苦労が報われた気持ちになったものです。

 この時のことを思い出しながら、被災者の皆さんのご苦労をテレビで見ています。被災地で復興に尽力されている方は誰に褒められるわけでもなく、「天知る、地知る、己知る」の心境で頑張っている方もいるかもしれません。でも、日本だけでなく、世界中の人たちが見守っています。自分のことを「勁草」だと信じて、勇気を持って困難に立ち向かっていただきたいと思います。

新型車の生産開始時に現場に駆けつけるトップ

 新約聖書に「羊飼いは、今いる羊をその場において、見失った1匹の羊を探し求める・・・」というよく知られた一節があります。神(=羊飼い)は、困難な立場に陥っている人(=見失った羊)にこそ、救いの手を差し伸べるという教えだそうです。

 「本流トヨタ方式」でも同様です。トヨタ自動車のトップは、定常業務をやっている99人より、新しいことに立ち向かうような非定常業務をやっている1人に手を差し伸べます。