本流トヨタ方式の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 先回に引き続き、「(その4)現地現物」について説明します。

 筆者がトヨタに入社した頃、大野耐一氏は生産担当常務としてトヨタグループ全体を統括していました。社内の現場改善は、もっぱら鈴村喜久男主査が担当していました。

 「主査」というのは、部次長クラスの専門職の称号でしたが、当時の現場では鈴村氏を指していました。そのくらい社内の各現場を指導して回っていたので、筆者たちは鈴村氏に教えられ、鍛えられた世代と言うこともできます。

 今回はその頃、鈴村氏から教わった「1+1は2になると思うな!」にまつわるお話を致します。

「当たり前のことを疑い、ぶつかって試してみよ」

 当時、鈴村主査は「1+1は2になると思うな!」というフレーズを、「問題解決で壁にぶつかったら、1+1=2という当たり前のことも疑い、試してみよ。結果はやってみなければ分からない」ということを強調するために使っていました。

 「エチルアルコール1.0リットル」と「水1.0リットル」を混ぜると2.0リットルにはならず、「1.9リットルのリキュール(?)」になるという例も引き合いに出して、説明していました。

 さらに「升で量った数字は信用するな」という話もしていました。升にいっぱい米を入れても、升をトントン叩けば米が押し詰まっていき、数%下がる。昔のずる賢い米屋はこれを利用して、客に売る時は静かに量り、買う時は乱暴に量って儲けを増やしたとも聞かされました。

 このようにして鈴村主査は、筆者たちに問題解決に向かう熱意と、得心がいくまで壁にぶつかっていけ、という勇気を与えてくれたのでした。

 筆者は航空科の出身なので、「人は絶対に空を飛べない」と学者が言っている中でも、自転車屋のライト兄弟がヒコーキを作り、空を飛んでみせたことを知っていました。また、趣味で乗っているヨットは、帆掛け船なのにジグザグに航行すれば風上に向かって進めることが分かっていました。そのため、鈴村主査の言わんとすることを素直に聞くことができました。

放浪の天才画家・山下清の「数え方」

 その後、筆者は「足し算とは何か」について根本的に考えさせられる映画のシーンに出合いました。