(篠原 信:農業研究者)

 子どもへの虐待のニュースが後を絶たない。そのニュースをめぐって、親の人間性を疑うような声が多いように思う。しかし筆者は、自分がその虐待した親と同じ立場、同じ生い立ちだったとしたら、同じことをやりかねない、と感じている。児童虐待は、「特殊な人間による特殊な犯行」とは思えない。立場が違えば、誰でも起こし得ること。しかも、境界線すれすれのお母さん、お父さんは、現時点でも潜在的にたくさんいるように思う。しかもその人たちは、善男善女。そんな善男善女が、どうして虐待に至り得るのか。

 キーワードは「ワンオペ育児」と「不眠」だ。

授乳期の母親を襲う強烈な睡眠不足

 今のお母さんたちが置かれがちな環境を一緒に考えていただきたい。現代の日本では、ワンオペ育児が大変多い。結婚して住んだ土地には知り合いもおらず、いろんな事情で実家の両親に育児を手伝ってもらうこともできず、夫は仕事で帰宅が遅く、たったひとりで育児(ワンオペ育児)せざるを得ない事情を抱えたお母さんは、結構多い。

 このとき、ひどく苦しむのが睡眠不足だ。それも、非常に強烈な。

 出産自体が生死に関わる大変なことなのに、出産してすぐに授乳が始まる。しかも3時間おきに。なかなか母乳が出ないお母さんもいる。そこでミルクを与えようとすると、ひどく手間がかかる。消毒液に漬けると、1時間後に哺乳瓶を取り出す必要がある。ミルクは熱湯でないと溶けないからお湯を沸かさねばならない。熱湯に溶かすと、時間をかけて人肌まで冷やさねばならない。ミルク後はゲップさせるが、これがなかなか出ない。オムツも替えなきゃ。ウンチが漏れたら総着替え。洗濯しなきゃ。そんなことしてると、次の授乳時間がきてしまう。

「え・・・? 私、いつ寝ればいいの?」

 赤ちゃんもなかなか寝てくれない。ようやく寝たと思っても、お母さんが離れるとすぐ気配を察知して泣き出してしまう。首がすわっていないからおんぶもできない。赤ちゃんが寝てくれないと用事が済ませられない。滞る家事。

 寝たら寝たで、静か過ぎて「息してる?」と気になる。いつ呼吸が止まってしまうか不安で、熟睡できない。子どもから目を離すことができず、気が休まる時間がなく、細切れにしか睡眠がとれず、ウトウトしても「生きている?」と不安に思い、熟睡できない。しかも出産で体力を大幅に削られているから、短時日でフラフラになる。