曺氏がこれからいかなる運命を辿るかは未知であるが、この二つのテーマは韓国のみならず、日本やアメリカにとっても無関係ではない。キャリアや影響力からすれば比べ物にならないが、人格的にみると、曺氏、そして現韓国政権を支えている人たちにはトランプ的な要素とアメリカの民主党側大統領候補者のサンダース、ウォーレン的要素が混ざっているように見える。すなわち、日韓に見る葛藤は複雑にアメリカや世界の格差問題や民主主義の漂流とも絡み合っているのである。

「言行不一致」は矛盾ではないのか

 韓国では、日本以上に社会の中の格差が拡大している。この弱肉強食的社会構造は、強者である保守勢力が弱者を搾取するという構図で捉えられている。そして進歩系勢力は弱者のために不公平性を生む社会の歪みを是正するのが大義となっている。その象徴的政策というのが、曺氏が青瓦台の前民情首席、そして今回の法務長官として担う司法改革である。すなわち、捜査権と起訴権を両方行使できる検察権力の改革だ。

 ところが、韓国の国民が最も公平性を求める入試の過程において、曺氏の子どもたちは不公平と思われる手法で進学していると疑われるようになり、不法行為の有無が究明されるようになった。まさに、「言行不一致」の候補(当時)が司法を司る長官職に相応しいのか、国民の過半数以上が疑問に思った。

 アメリカにも言行不一致の人がいる。お馴染みのトランプ大統領だ。最近、アメリカのメディアからは、トランプ氏が中米からの不法移民に対して厳しい処置を取り続けているのは、中米やメキシコからの移民を犯罪者や麻薬業者とする氏の差別的表現に起因していると批判した。しかし、トランプはその発言記録を突きつけられても、「わたしは世界で最も非差別的な人だ」(least racist)と躊躇なく返した。今度の大統領選に向けいくつかの放送局がトランプ支持者に「再度、氏を支持するつもりか」と聞くと、多くの人が、「嘘つきであろうが人を裏切ろうが、氏に投票する」と回答したという。

 同じように、曺氏にも熱烈なサポーターが多い。彼はけっして恵まれない環境で育ったわけではない。政府幹部の資産公開資料によれば、50億~70億ウォン(おおよそ5億~7億円)の資産を持っているという。しかも、教授、すなわち学問畑の人がいかにここまで蓄えたのであろうか。そうした人が、韓国の4つの蟻地獄、すなわち教育、就職、不動産、老後を改善すると主張するのだからいびつに見える。そのような人がいかに恵まれない人の境遇がわかるのであろうか。不思議なことに、進歩系でこうした「言行不一致」の人は曺氏だけではない。ある文政権の青瓦台元幹部スタッフも資産公開で5億円の資産を保有していた。こちらも大学教授だ。こうした人々を韓国では「江南左派」(カンナムチョアパ)と呼ぶ。