「2年後は安倍裁定」の現実味

 そこで登場するのが、派閥次元的には〝中間的〟存在の菅義偉官房長官だ。菅氏は、無派閥議員を約30人束ねており、実質的に「菅グループ」を形成しているが、派閥的な動きは避けている。ゆえに、主要派閥が「無派閥」の菅氏を招きいれるような形で担ぐことは理屈的にも可能だ。

第4次安倍再改造内閣で菅官房長官に留任した菅義偉氏(写真:AP/アフロ)

 そもそも、菅氏が総裁選で勝利するということは、どういうことなのか。

 絶大な影響力を持つ安倍首相が後継者として菅氏を指名する。細田派が全力で菅氏を応援し、これに菅氏と関係良好な二階派(45人、志帥会)がつく――というシナリオになる。

 岸田派、竹下派がともに候補者を擁立したとしても、数の論理でいえば、細田・二階・菅グループ連合軍には勝てない(単純計算で172)。大宏池会が実現しても、規模は100人前後であり、大宏池会にさらに竹下派がついても、細田・二階・菅グループ連合軍には数の上ではまだ勝てない。

 とはいえ、細田・二階・菅グループ連合軍に対抗する方法がひとつだけある。

 麻生、岸田、竹下、石破の4派が結束するシナリオだ。この4派が歩調を合わせて、初めて基数は170前後となり、細田・二階・菅グループ連合軍と互角になる。逆に言えば、4派が結束できなければ、細田派に対抗することは難しい。

 そう考えると、結局のところ、最大派閥の細田派の判断こそが肝であり、それを決定するのが安倍首相なのである。すなわち、安倍首相が選ぶ後継者が次期総裁となる。

 これは形も経緯も時代もまったく異なるが、「中曽根裁定」ならぬ「安倍裁定」と言っていいだろう。

 菅氏は安倍首相に従い続けてきた。裏切ったことはない。菅氏はきっと、「ご指導を仰ぎたい」と安倍首相にささやくだろう。菅氏と岸田氏、どちらが安倍首相に従順だろうか。答えは言うまでもない。安倍首相が岸田氏を選ぶとは思えないのだ。派閥力学でみても、困難といわざるを得ないし、心証の面で怪しい。当選同期で、個人的に親しいという安倍首相と岸田氏だが、その関係が決定打になるとは思えない。

 もちろん、先入観や固定観念は禁物だ。

 岸田氏が憲法改正の道筋をつけ、菅氏以上に安倍首相に従順になれば、答えはおのずと違ってくる。さらに、安倍首相が小泉進次郎環境相をこの2年間で徹底的に鍛え上げ、一気に首相の座につけるという「仰天プラン」もあり得る。

 2年後の「安倍裁定」に向けた戦いがすでに始まっている。