ジグザグあおり運転の末、歩道に突っ込み4人死傷も「過失」

 2012年11月、東京地裁で下された死亡事故の判決も、遺族にとっては到底納得できないものでした。

 事故は、2010年12月26日夜、東京・田園調布の中原街道で発生しました。

 ラップ音楽に合わせて、他車の走行を妨害しながらジグザグ運転をしていた車が、制御不能となって歩道に直角に突っ込み、信号待ちをしていた祖父母と、冬休みで遊びに来ていた2人の孫に衝突。

 9歳と6歳の男の子が亡くなり、祖父母も大けがを負い、重体となったのです。

歩道上で信号待ちをしていた2人の男の子がはねられた事故直後の現場(『柴犬マイちゃんへの手紙』の背表紙より)

 4人は祖父母が飼っている愛犬の散歩中でした。

 加害者は近所に住む20歳の男でした。事故を起こす前から危険なあおり運転が目撃されており、近所でも心配する声が上がっていたそうです。

 当初、加害者は交通事故の中では最も重い「危険運転致死傷罪」で起訴され、裁判員裁判が開かれました。

 ところが、加害者の供述は裁判の途中に変遷。事故直後の内容と大きく変化します。それが原因となって、訴因が「自動車運転過失致死傷罪」に変更され、約1年後、15年の求刑に対して、その半分以下である懲役7年という判決が下されたのです。

 裁判官は判決文にこう記していました。

≪被告人はハンドルから手を放し、車内で流していた音楽に合わせてクラクションを鳴らし、赤信号で停止した状態から急加速して、隣の車線を走っている車を追い抜くといったふざけた運転を続けた挙句、(一般道を)時速約70キロを超える速度で進行中、曲のラップ部分に合わせて急ハンドルを切ったのであり、自動車運転の危険性を全く考えていない、極めて悪質な運転により事故を起こしたものである≫

 この事故でも裁判官は、加害者に対し「極めて悪質な運転」という言葉を使っています。しかし、それでも「危険運転」ではなく、「過失」と判断されたのです。

 私は、この事故の判決が出た翌年、裁判の経緯や加害者の供述の変遷、子どもを失った遺族らの思いを『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子と失った家族と愛犬の物語』(講談社)という一冊の児童書にまとめました。

『柴犬マイちゃんへの手紙―無謀運転でふたりの男の子と失った家族と愛犬の物語』(柳原三佳著・講談社)*事故の取り調べ、裁判の様子、残されたそれぞれの家族の悲しみと怒り、そして事故に遭遇しながら、奇跡的に無傷で助かった愛犬のマイちゃんとの心の交流を、丹念な取材で描いた1冊

 ドライバーの中には危険を顧みず、法律を無視し、クルマを使って自己顕示欲を満たそうとする人がいます。そういう大人になる前に、子どものころからハンドルを握ることの重さ、命の大切さを伝えたいと思ったからです。

 本のあとがきには、大切な2人の孫を目の前で失った祖父母の言葉が寄せられています。