田原 僕は、文在寅さんが日本にケンカを売ったら、実は北朝鮮の金正恩が困っているんじゃないかと思うんです。というのも、北朝鮮が本格的に経済復興をするとするなら、絶対に日本の経済援助が必要になりますよね。トランプもそう言っているじゃないですか。「日本から経済援助しろ」と。

武藤 そうです。だから、もしも核の問題が片付いて「北朝鮮を支援しよう」ということになったら、日本が加わらなかったらとても出来ない。

田原 というか、日本しかないですよね。そんなことは金正恩もよく分かっているともう。

武藤 ええ。分かっていないのは文在寅氏だけです。

田原 なんだろう、それって・・・。

武藤 要するに彼は、歴史の見直し、南北融和、所得主導成長政策。この3つしか考えていないんです。

田原 その結果、金正恩を困らせることになってもいいんですかね。

武藤 そこまで考えが及んでいないんだと思いますよ。

 よく安倍総理に対する意見として、「文在寅と胸襟を開いて対話して、日韓関係をよくせよ」なんていう指摘をする人がいますが、相手が「国益を考える大統領」だったらそれも可能です。自国の国益を考えれば、「何のメリットがあるのか、日本と上手くやらないといけないじゃないか」と、どこかで気づきますから。でも、文在寅氏は国益を考えていない。だから胸襟を開いて話したって分かり合えないんです。

北朝鮮問題にしか興味を示さなかった文在寅

田原 2年ほど前になりますが、自民党幹事長の二階俊博さんが、安倍さんの特使として、中国の習近平さん、韓国の文在寅さんと立て続けに会いに行ったことがありましたよね。日本では、慰安婦合意の再交渉をしようとしている文在寅さんに対して、二階さんがどういうことを言うのか注目されていたわけですが、文在寅さんと会談したとき、二階さんは慰安婦のことを言わなかったんですよ。そうしたら文在寅さんは、日本は弱腰になっていると思ったのか、「こんなことやってほしい、あんなことやってほしい」とあれこれ注文を出してきたらしい。

武藤 文在寅氏というのはそういう人です。目の前にいるときには調子のいいことを言うけれど、実際にやっていることは全然違う。「ウソの饗宴」という朝鮮日報主筆のコラムを思い出してください。文大統領の言葉を信じてはだめです。行動を見るしかないです。私は文在寅氏には、彼が朴槿恵さんと大統領を争っている選挙の時に一度だけ会ったことがありますが、変わった人だなという印象でした。

田原 どういう人でした。

武藤 有力候補にはみな会っておきたいと思ったので、面会の申し入れを何度もしたのですが、スケジュールの都合を理由になかなか会ってくれない。それで何度目かの時に、「どこにでも出向きますから」ということでお願いしたら、「釜山の事務所でなら時間が取れる」というので釜山まで出向きました。

 面会の当日、私はまず彼の盟友である盧武鉉の墓前に花を手向け、それから文在寅氏に会いに行きました。盧武鉉の墓参りをしてきたことも彼に伝えたうえで、「日韓は協力すればこれだけ互いに組むメリットがある関係だ。第三国での協力などもやっていけば大きな利益になる」なんていうことを縷々説明しました。

 しかし、それに対して彼からはコメントも質問も一切ありませんでした。彼が口にしたのは「日本は北朝鮮とどういう関係を作っていくのか。韓国と北朝鮮の統一について日本はどう考えているのか」と。それだけです。

 そのときに同席したのが、徐薫(ソ・フン)という今の国家情報院院長です。かつて国家情報院の元第3次長で、盧武鉉政権時に北朝鮮とのパイプ役を担ってきた人物です。故・金正日総書記が韓国の官僚で唯一名前と顔を知っていた人物、と言われています。

 そんな人物を側に私と面会した文在寅氏は、北朝鮮との関係にだけ関心があって、日本との関係については無関心なんだなと感じました。

田原 しかし、いくら北朝鮮に関心があると言ったって、あんな言論の自由もない社会主義国家がそんなに魅力的なんですかね。

武藤 文在寅氏は人権派弁護士で、日本に対しては人権についてさんざん言いますが、北朝鮮の人々の人権については何も言いませんよね。

田原 はっきり言って、北朝鮮に人権なんてないじゃないですか。

武藤 ないけれど、人権派弁護士である彼は、それを問題視しない。

田原 なぜ北朝鮮に対してそれを言わないんだろう。

武藤 彼は北朝鮮にゴマをするだけです。盧武鉉政権当時、国連が北朝鮮の人権非難決議案の採択の際、韓国はどういう態度を取るべきかなかなか決めかねていたんです。その時、大統領秘書室用だった文在寅氏は、「じゃあ、北の意見を聞いてみよう」と言って、北朝鮮にお伺いを立てたんですよ。結局、北朝鮮からは「表決では責任ある立場を取ることを望む」という返答を受けて、韓国は棄権に回ったのです。この「北へのお伺い疑惑」は、当時の韓国外相の回想録にも書かれています。そんなふうに、北のご機嫌取りばかりに熱心なのが今の韓国大統領なのです。

田原 そんなことをして、文在寅さんはいったい何がしたいのかな。

武藤 北と仲良くしたい、財閥を潰してより公平な社会を作りたい、そんなことを考えているんじゃないでしょうかね。

田原 財閥潰すのは悪くないと思うけど、韓国では相変わらず財閥が権力を持っていますよね。なぜ潰れないんですか。

武藤 だって韓国経済は財閥のお陰でもっているようなものですから。財閥を潰したら韓国経済が壊滅的な打撃を受けますよ。ちょっと前に韓国の景気が良かったのだって、輸出型の財閥系企業の業績だけよかったまでですから。それもいまは傾いてきていますけど。