ゼロ金利のときしか使えない

 MMTが注目されるようになったのは、世界的なゼロ金利のおかげだ。普通は財政赤字を通貨の発行で埋めると金利が上がってインフレになるが、21世紀にはその常識が通じなくなった。その証拠が日本だ、とMMT論者のステファニー・ケルトンはいう。

日本の経済には十分な余裕があり、これまでもありました。政府債務は過去の財政赤字の単なる歴史的記録です。これによってわかるのは、これまでの赤字財政で日本経済の過熱を招くことはなかったということです。だからこの水準[GDP比240%]の債務を吸収できたのです。

 

 安倍首相がそう意識していたかどうかは別にして、デフレのときは「輪転機ぐるぐる」でお札を印刷しても大丈夫だというアベノミクスは、MMTの壮大な実験だった。「通貨を大量に発行したらハイパーインフレが起こる」と危惧した経済学者が多かったが、よくも悪くもインフレは起こらなかった。

 国会で西田昌司氏(自民党)の質問に対して首相はMMTを否定したが、「2012年に私が総裁選挙で大胆な金融緩和について主張したときに、それをやったら国債は暴落し、円も暴落すると言われた。実際は国債の金利は下がり、円が暴落したわけではない」とMMTの主張を認めた。

 今までのところ日本ではMMTが正しかったようにみえるが、それはこの20年間ずっとゼロ金利で、物価も上がらなかったからだ。この状況では国債と通貨が同じ(したがって正しい金利はゼロ)と考えるMMTは単純でわかりやすいが、金利はなぜ上がらないのか。

 MMTには金利や物価を決める理論がないので、それはわからない。MMTはゼロ金利を前提するだけで説明できないゼロ金利限定の理論なので、金利が上がったら使えないのだ。