米朝首脳会談、合意なく唐突な幕切れ トランプ氏帰途に

第2回米朝首脳会談を終え、ベトナム・ハノイの空港で米大統領専用機エアフォースワンに搭乗するドナルド・トランプ大統領(2019年2月28日撮影)。(c)Saul LOEB / AFP〔AFPBB News

(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)

 2月27、28日にベトナム・ハノイで行われた米朝首脳会談の経緯、その舞台裏が、米政府を取材する米メディア各社の報道によってかなり明らかになった。

 それによると、両国の事前の実務者協議ではもともと熾烈な駆け引きが続いており、合意には至っていなかったようだ。

 ただし、これまでとは違う前向きな材料があった。北朝鮮側が初めて、寧辺の一部の核施設の閉鎖をカードとして切っていたことだ。北朝鮮側は、そのカードと引き換えに、制裁の主要部分の解除を要求していた。これに対し、アメリカ側はそれを渋っていた。おそらく南北経済活動の一部を認めるなどの小さな見返りに留まっていたものと思われる。

 米朝双方の要求の隔たりは大きかったが、とくに北朝鮮側からすれば、寧辺の核施設の一部閉鎖という大きなカードを出せば、アメリカもおそらく最後はそれなりの規模の制裁解除に応じるだろうとの期待もあったのではないかと思われる。

事前の実務者協議、北朝鮮は強気だった

 事前にトランプ政権側からさかんに「首脳会談は成果が期待できる」との見通しが発信されていた。そのため、北朝鮮側は「トランプ大統領はとにかく合意したがっている」と受け止めたのだろう。北朝鮮の交渉はかなり強気なもので、実務者協議の過程で、北朝鮮側が「交渉は中止だ」と脅すことも何度かあったという。

 しかし、事務方の事前協議では、互いの条件は合意に達していない。寧辺の核施設の廃棄については、北朝鮮側が廃棄する「寧辺の核施設」の中身を具体的に明言していなかった。おそらく昨年(2018年)12月から使用していない「原子炉」は入るが、それ以上については不明である。

 また、逆に北朝鮮側が求める制裁解除は、具体的にみると、軍事物資以外のほとんどの禁輸を解くような内容で、アメリカ政府が呑めるものではなかった。したがって、アメリカ側としては、最初から大きな取引の合意はほとんど期待していなかったようだ。