米国の金融危機の直後、2人のノーベル賞経済学者が、積極的な財政出動を提案した。プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は公共投資の景気対策上の重要性を強く主張する。これに対して、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は公共投資に加えてイノベーションが決定的な役割を果たすことを力説した。

 2009年、新たに発足したオバマ政権は「グリーン」をキーワードにエネルギー、気候環境と医療健康政策を打ち出している。このような「グリーン」ブームに三井物産戦略研究所の寺島実郎理事長は大いに疑問を投げかけている。

 1980年代末、不況の米国は独り勝ちの日本に買い占められてしまうのではないか、といった噂が流れていた。それが冷戦崩壊後、「IT」のキーワードとともに米国経済は復興する。だがここで「不幸にもITと金融が結婚したこと」が、サブプライム破綻以後の金融危機につながったと寺島さんは言う。

米国はITで復活した。次もグリーンで復活できるのか

 しかし、この不幸な結婚にもかかわらずキーワード「IT」は一定以上の効力を発揮した。冷戦時のミサイル戦略で築き上げられた情報ネットワークのインフラストラクチャーと技術の蓄積があったからだ。だが新しいキーワード「グリーン」はどうか?

オバマ氏が就任演説で使う決まり文句の予想、一番人気は「Change has come」

米国のバラク・オバマ大統領は「グリーン」を次の成長の牽引車として期待する〔AFPBB News

 アル・ゴア氏など、米国にも突出した個人的例外はあるものの、グローバルな環境対策は、一貫して欧州がリードして進められてきた。北欧がリードし、国連が推進してきた京都議定書を批准する見通しは立たないだろう。

 キーワード「グリーン」で進められるエネルギー対策の数々、エコロジーに配慮した自動車、風力発電やバイオマスなどの再生可能資源技術のどれを取っても、米国が世界で突出した技術力を誇るものはない。ここが、冷戦時に軍事技術として集中的に資金投入された「IT」と大きく事情が異なるところだ。

 そしてこれらのどの分野でも、要素技術に注目すれば、日本の技術力が圧倒的な輝きを放っている。日本に不足しているのは、それらを産業に育て上げるシステム統合、インキュベーションの力だ。医療・健康行政にいたっては、米国は日本の国民皆保険の水準には到底及ばない状況にある。

 資金の循環が実体経済と遊離して、単なるマネーゲームとして空走したことが、今回の金融危機の実態である。単なる数字の膨張ではなく、実質を伴う経済を私たちが回復するためには、イノベーションへの投資による真の成長という原点に回帰する必要がある。

 その観点で見る時、日本が既に持つ要素技術群、そして危機の今日も持っている基幹開発能力の高さに、世界は注目すべきだし、日本人もまたその自覚を新たにすべきだろう。