プロローグ
利益を生まない巨大プロジェクト
「利益を生まない巨大プロジェクトが進められている場合、理由が2つ考えられる。出資者が愚かであるか、あるいは狙いが他にあるかだ」
2019年2月20日付・日本経済新聞6面に、英週刊誌エコノミストの「新パイプラインはロシアのワナ」と題する長文翻訳記事が掲載されました。
上記はこの論考の冒頭の一節です。内容は事実に反する記述が多く、曲解と偏見に満ちた記事なので論評に価せずと考え、筆者は無視しておりました。
ところがその後、多くの知人・友人から「この記事内容は本当か?」との問い合わせを受けました。
内容は事実と異なっていても、著名な雑誌であり影響力も大きいようなので、今回はあえてこの記事を題材として取り上げることにしました。
この記事が批判している対象パイプライン(P/L)は「ノルト・ストリーム②」と命名された、ロシアからバルト海経由ドイツまでの天然ガス海底パイプラインです。
②と命名された理由は①があるからですが、最初のパイプラインは単に「ノルト・ストリーム」が正式名称です。
ただし、「ノルト・ストリーム②」と比較する意味で、この小論ではあえて「ノルト・ストリーム①」という名称を用いたいと思います。
この小論ではまず、旧ソ連邦・新生ロシア連邦から欧州向けの天然ガス輸出の歴史を概観することにより、旧ソ連邦・新生ロシア連邦が天然ガス供給源として信頼に足る存在であるかどうか検証します。
次にノルト・ストリーム①の現況を分析し、なぜ米国やウクライナがノルト・ストリーム②に反対しているのか考察したいと思います。
最後に、英エコノミスト誌冒頭の一句が果たして正鵠を射ているのかどうか、筆者個人の見解をご披露させていただきます。