東京・千駄ヶ谷の日本共産党本部ビル

 日本共産党の指導者である不破哲三氏の造語に「科学の目」というのがある。物事を科学的に見る力をつければ、さまざまな事象の本質を正しく認識できる、ということであろう。

 これまで共産党では、「科学の目」を党員に植え付けるべく「科学の目」講座なるものが行われてきた。また私が知る限り、不破氏は「科学の目」という名称が入った著書を3冊著している。「二十一世紀と『科学の目』」(2001年、新日本出版社)、「ふたたび『科学の目』を語る 二十一世紀の資本主義と社会主義」(2003年、新日本出版社)、「『科学の目』で見る日本と世界」(2011年、新日本出版社)がそれである。

 だが、森羅万象の出来事を科学的に、かつ正しく認識するなどということは、容易なことではない。しかも政党や政治が直面するのは、自然現象だけではない。人間社会のありようにも直面する。このことまで正しく認識できるなどというのは、傲慢でしかない。そんなことは、ほぼ不可能だと私などは思っている。

完全に見誤ったベネズエラの社会主義政権

 周知のように、いまベネズエラはチャベス大統領の後を継いだマドゥロ政権のもとで大混乱が発生している。何しろインフレ率が100万%を超えているというのだから、絶望的とも言える状態になっている。

 だがこの左派政権を高く評価してきたのが、日本共産党であり、不破氏であった。2009年9月に出版された『激動の世界はどこに向かうのか 日中理論会談の報告』という不破氏の著作には、その評価の高さがこれでもかこれでもかと強調されている。

 日本共産党の現在の規約には、「党は、科学的社会主義を理論的な基礎とする」とある。科学的社会というのは、かつてはマルクス主義とかマルクス・レーニン主義と呼ばれてきたものである。だがベネズエラの左派政権は、マルクス主義とか、科学的社会主義を掲げる政権ではなかった。それでも不破氏は、この政権を高く評価していたのだ。これは共産党としては、相当、思い切った評価であった。