日本エア・リキードが2018年4月から営業している川崎水素ステーション(写真提供:日本エア・リキード)

 水素エネルギー時代の到来が叫ばれている。最も身近で分かりやすい活用例が燃料電池だ。水を電気分解すれば酸素と水素に分かれる。中学校2年生の理科の授業でやったこの実験の逆、つまり酸素と水素を反応させることで電気が生まれる。簡単にいうとそれが燃料電池だ。水素と酸素が反応するだけだから、水しか出てこない。ある意味、夢のようなクリーンエネルギーである。

 水素を燃料にして起こした電気で走る車が「FCV」(燃料電池車)だ。世界では1万台。国内ではまだ約3000程度ではあるが、すでに公道を走っている。現行モデルではトヨタ自動車が2014年に発売した「MIRAI」、ホンダが2016年に発売した「クラリティ フューエルセル」の2車種がある。燃料補給は「水素ステーション」で行う。都内に14カ所、全国で約100カ所が設置されている。

多方面での活用が期待される燃料電池

 今はまだ様々な事情が絡んで“細々と”普及しているにすぎない水素だが、そのポテンシャルはきわめて大きい。

 水素はこの宇宙に最も多く存在する元素である。地球上では水素単体で存在することはないのであまり目立たないものの、高い還元力などの特性を生かしてこれまで多くの産業分野で活用されてきた。

 例えば工業用途ではステンレスなどの金属の表面をなめらかにするのに水素が使われる。石油コンビナートでは原油に水素を吹き込んで硫黄分を取り除く水素添加脱硫用として使われる。水素がなければ光ファイバーも作れない。半導体や液晶パネル、LEDの製造でも原料のガスの希釈には、還元力が強くて最も軽い特性を生かして水素が使われる。重厚長大から最先端のハイテクまで、水素はかれこれ50年以上も日本の産業を支えてきた。身近なところではマーガリンや口紅の製造で原料油脂を固める硬化剤として使われている。

 この水素が、いま将来のエネルギー用途として注目されている。質量当たりのエネルギー密度はガソリンの3倍。石油や液化天然ガス(LNG)に比べても非常に大きい。