今、全国各地の地方自治体の間で移住者誘致がたいへん盛んである。ところが、うまくいっているケースは少ない。誘致の典型例は、域内にブロードバンドを整備したことを声高に喧伝して都会から起業家を呼ぼうとする取り組みである。しかし、起業家としての素養の持ち主が果たしてどれだけいるというのだろうか? その限られた人々を日本中で獲り合っていては、どこも必要数は満たせまい。
そういう中にあって、独創的な移住政策を通じて、2010~2015年の移住者数で九州トップ(336人)になり、活性化が進む地方都市がある。鹿児島県霧島市である。
同市では、「起業家よ来たれ!」的な一方的な働きかけはしない。あくまでも、市の自然・歴史文化・生活環境などに関する情報発信を行い、霧島市で暮らすという人生観・ライフスタイルを控えめに訴求しているに過ぎない。それに興味をもってくれる人であれば、引退後の年金生活者であろうが、商店主であろうが、分け隔てなく仲間として受け入れる。
こうした姿勢が共感を呼んだのか、同市には多様な人々が続々と移住し、今まで市内になかったような商売も始まるなど、市内は活性化し始めている。
今回は、そうした移住者の中から「オーベルジュ異人館」(注)オーナーシェフ金澤智玲氏(51)の革新的な取り組みについてご紹介したい(注:オーベルジュとは宿泊機能のあるレストランのこと。日本の料亭旅館に近い存在)。